第5話

小柄な男は大声を上げている。



「遅い、遅い、弥兵衛、はようこい」



小柄な男は供の者たちをからかうように気軽に声をかけていた。



本堂と庫裏は渡り廊下で繋がっているため、住持は小走りで出で行った。



「これは、羽柴の殿さま」



「おう、ご坊、邪魔をするぞ」



佐吉が初めて目にした秀吉は頬がそげ、顎が尖っていて笑うとだらしなくくずれる。



ーやはり少し、猿に似ている…



羽柴藤吉郎秀吉は今年、三十九歳だった。


秀吉はどっかと濡縁に腰を下ろし、住持は膝をついて挨拶をしている。




「よく起こし下されました」



「鷹狩りの途中じゃ」



佐吉はそれまで読んでいた書物を閉じ元の場所に戻した。


観音寺には多くの書物が所蔵されていて佐吉はその書物全てをもう少しで読破出来る。



部屋を出て佐吉はくりゃに急いで行く、住待が自ら茶を淹れていた。



「住待さま、ぬるめが良いのではありませんか」



住待は驚き振り返る。



「羽柴さまは汗を掻いておられます」




「うむ」



「お供の方々にも、お茶をお出ししたほうがよいでしょう」



「そうだな」




住待は佐吉を睨んだが、切れ長の黒い瞳を輝かせているのが分かり仕方なく、

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