第11話

叶多と初めて話した時のことを、鮮明に思い出すことができる。


 中学に上がったばかりの頃、私は昼休みを保健室で寝て過ごしていた。毎日寝不足で、給食の後などはとても起きていられなかったのだ。

 その日は午後の授業が始まってからも起きることができなかった。

 校庭で行われている体育の授業を遠くに聞きながら眠りこんでいた私は、五時間目が終わる頃、保健室の戸がカラカラと開けられる音で目を覚ました。

 ベッドを仕切るカーテンに映る人影は、しばらく保健室の中をウロウロしていたかと思うと、諦めたように長椅子に座った。そこで私は、保健室の先生が少しの間不在にすると言っていたのを思い出した。

 カーテンをそっとめくると、上履きのつま先が見えた。その色で、自分と同じ一年生だと分かった。さらにカーテンをめくりあげると、体操服を着た小柄な生徒の横顔が見えた。

『どうしたの?』

 そう声をかけたら驚かせてしまったようで、その子はビクッと肩を跳ねさせた。

 それが、叶多との出会いだった。


 叶多は私に、体育の授業で鉄棒に頭をぶつけてしまって、一応保健室で診てもらえと言われたから来たのだと説明した。

 まだ声変わりをしていなくて、男の子にしては長めの髪と華奢な身体つきから、私は叶多を女の子だと勘違いしてしまった。その中学校は体操服が男女共通だったから、男女を見分ける術がなかったのだ。

『ハセガワ、カナタ、ちゃん?』

 胸に書かれた名前を見てそう呼んだ私に、叶多はなぜか訂正しなかった。

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