第10話
会場の近くの飲食店は、入学式帰りの新入生やその家族でどこも混んでいた。
チャラ木たちは、しばらく歩いた後、どこにでもあるファストフード店に入った。
大学生になったのがそんなに嬉しいのか、彼らは学生証の写真とかネクタイの結び方とかいった小さなことで延々と盛り上がっている。
チャラ木は私にもしつこく話を振ってきたけど、気のない返事でやり過ごした。収穫といえば、この男の名前が吉木だということを思い出したことくらいだった。
一時間ほどしてやっと解散の流れになった。
ゾロゾロと駅まで歩いて、改札やホームで散っていって、電車でやっと吉木と二人になった。マチョコと『チョ』にアクセントを付けて呼ばれていた金髪の女が、最後まで私のことを睨みつけていた。
「何か変わったな、ゆーちん。昔はもっと感じ良かったじゃん」
吉木が電車のつり革をブラブラさせながら言った。
「あんなつまんなそうにしてたら空気ぶち壊しじゃんよ」
そう非難してくる。呆れて言い返す気にもならない。
「あ、もしかして怒ってる?急いでるって言ってたもんな。ごめんて。さくっと食って出るつもりだったんだけど、あいつらがさぁ」
積極的に盛り上げていた張本人の癖に、この男は悪びれない。
「別に怒ってないよ」
ここで嫌みを言っても始まらないので、吉木の弁明を受け流した。急いでいるというのは嘘だし。
「それより、カナタくんが高校中退したってどういうこと?」
それさえ聞ければ、後はどうだっていい。
「あー、やっぱし気になっちゃう感じ?」
吉木が揶揄うようにニヤついた。まだもったいつける気かと思って睨みつけたけど、全く意に介していないようだ。それどころかさらに顔を近づけてくるから、吊り革一個分吉木から離れた。
「すげー仲良かったもんな。クラス違ったのにどこで接点あったんよ?」
あくまで話の主導権を握るつもりらしい。
まあいい。降りる駅はまだ先だ。
「接点って言うほどのことはなかったんだけどーー」
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