第8話

ベッドに腰を下ろして放心していると、父親が開けっ放しにしていったドアから、ラーメン特有の脂っぽいにおいがしてきた。

 まさかと思ったのと同時くらいに、父親の呼ぶ声がした。

 一階に降りると、予想通りテーブルの上に大きな丼が一つ置かれていた。父親がニヤニヤと見てくる。娘が喜ぶと信じて疑わない顔だ。

 突き返すのも面倒で、スーツのジャケットを脱いで油まみれの麺を啜った。


 すっかり胃もたれした身体を引きずるようにして入学式の会場へ向かいながら、ますます憂鬱な気分になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る