第4話

「悪かったな。院長がいるからわざわざ言う必要もないかと思ったんだ」

 一応子供の腕に触れて、想定内の温度であることを確認して袖を戻した。

「予防接種っていうのは、ウイルスと戦える武器を作ることを目的に、ウイルスもどきを打つんだ。このウイルスもどきが体内で増殖して悪さをすることはないが、身体はそれを異物と認識して武器を作るんだから、そりゃあ腫れるし熱も持つ。二、三日様子を見て、治まらないようだったらまた来てくれ」

 説明しながら、メモ用紙に住所を走り書きする。

「すみません。私、気が動転して、言い過ぎました」

 そう謝ってくる女にメモ用紙を手渡した。

 子供の額に手を当てる。体温も問題なさそうだ。

「これは……?」

「俺んちの住所」

「へ?」

 子供の額に当てる手で目まで覆って、立ち上がる。

 女の顎を掴んで引き寄せて、ほんの一瞬キスをした。

「な、なな、な……!」

 女はみるみるうちに真っ赤になって、後ずさってドアに頭をぶつけている。

「家族用のワクチン持ってるから、あんたにも打ってやるよ。今週は夜八時以降なら家にいる」

 言いながら椅子に腰を下ろして、子供の目から手を離した。

「その様子じゃ、インフルエンザウイルスに対しても男に対しても免疫ないだろ。本番で苦しまないように、俺があんたに仕込んでやるよ」

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