第34話

「え、いつ……いつ内々定が出たんですか?」

 少し落ち着きを取り戻して、咲来がそう尋ねると、

「十月の初めです」

と、後藤は軽い調子で答えた。

「なっ。そんな前に?いくら内密にって言われたからって、彼女にまで隠します?」

 すみません、と後藤は再び謝った。

「リスクを全て排除しておきたかったんです。せっかくササラちゃんと同じ会社から内々定をもらえたのに、取り消しなんてことになったら、後悔してもしきれないから」

「だからって。え、研究職ですか?」

 咲来は開発職だ。同じ会社でも、職種が違えば配属先も異なる。開発職は本社なのに対して、研究職は研究所に配属される。東西ファーマの研究所は、全国に散らばっている。

「いえ。お医者さんとやり取りする仕事なので、配属先はササラちゃんと同じ本社です」

 後藤は涼しい顔でそう答えた。

「えっと、私と同じ会社になったのって偶然なんですよね?」

 少し怖くなって、咲来は恐る恐るそう尋ねた。

 そんな咲来を見て、後藤は少し笑った。

「正直、ササラちゃんと同じ会社に入れたらいいなぁとは思いました。でも、それだけの理由で選んだわけじゃないですよ。東西ファーマだったら、大学で研究してきたことが活かせそうだと思ったので」

 その答えを聞いて、咲来はホッとした。

 東西ファーマの主要な研究領域は精神疾患だ。確かに後藤の博論テーマとも合致している。

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