第33話

「ちょっと、飲む前に聞いてもらえますか?」

 お洒落なフレンチレストランで、ワインのグラスに口をつけようとした咲来を、後藤が止めた。

「は、はい」

 咲来が素直にワインをテーブルに戻すと、後藤は居住まいを正した。

「薄々お気づきかと思いますが」

 そんな前置きをするから、咲来は少し緊張した。

「俺は、ササラちゃんの後輩になります」

 かしこまった口調で、後藤はそう言った。

「……はい?こ、後輩?」

 予期しない言葉に、咲来は面食らった。

「あれ。気づいてませんでした?」

「気づくも何も、どういうことですか?」

「いや、俺も東西ファーマから内々定もらってて。内密にということだったので言えなかったんですが、おととい解禁になったので……」

 固まってしまった咲来の前に、前菜が運ばれてくる。

「大丈夫ですか?ササラちゃん」

 後藤に顔の前で手を振られて、咲来はハッと我に返った。

「え、な、え?後輩?東西ファ、え、後藤さんが私の後輩になるんですか?」

「ええ。気づいてるかと思ったんですが。言えない代わりに、丁寧語で話すことで間接的に伝えていたつもりでした」

「き、気づくわけないじゃないですか、そんなの」

「それはすみませんでした」

 後藤は申し訳なさそうに謝った。

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