始まった少し先で

第31話

咲来が色とりどりのイルミネーションの中に後藤を見つけて駆け寄ると、彼はタブレットから目を上げて微笑んだ。

「大丈夫でした?無理させちゃいましたか?」

 タブレットを鞄にしまいながら、後藤は気遣うように尋ねた。

「無理はめっちゃしました。ヘトヘトです」

「え、すみません。俺がわがまま言ったから」

「別に、後藤さんのせいじゃないです」

 咲来が後藤の手に指を絡める。

「私だって、今日くらい後藤さんとゆっくり過ごしたかったので」

 

 一ヶ月前から正式に付き合い始めたとはいえ、咲来が実験と卒論と論文作成に追われているせいで、ろくにデートをする時間もなかった。

 二人で過ごす時間といえば、学食で夕飯をかきこむ間と、後藤にバイクで送り迎えしてもらう間だけで、ゆっくり話すこともままならなかった。


 クリスマスイブは絶対にデートする。

 誘ったのは後藤だったけど、咲来の方もそう心に決めていた。

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