第28話

病院の建物に入ると、咲来の母親のかかりつけ医がエントランスに立っていた。


「後藤くん、どこ行っちゃったかと……あれ?大政さんのところの、咲来さん?」

 本間という名の医者は、後藤と咲来という組み合わせに驚いたように、二人の顔を交互に見た。

「あ、大学の先輩で」

 本間が後藤の訪問相手だったのだと、いち早く把握した咲来は、後藤を指して説明した。

「ああ、そうだったの。お母様、今日はだいぶ落ち着いてるよ」

「そうですか。会いに行きます」

 咲来が本間と和やかに話していると、

「さ、サラさん……?」

と、後藤が呟いた。

「はい?」

「お、俺、オウマさんかと。ササラさんかと思ってて……」

「知ってます」

「なっ。何で、教えてくれなかったの?」

 丁寧語を忘れている後藤を見て、咲来は笑った。

「案外、そう呼ばれるの、気に入ってたんで」


 大政という苗字も、そう悪くないと思えたのだ。

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