第18話

「ポストイットといえば」

 咲来の後ろで安村が呟いた。

「大政さんって、後藤さんと付き合ってんじゃなかったの?」

「……ゴトウさん?」

 その名前に全く心当たりがなくて、咲来が聞き返すと、安村は意外そうに眉を上げた。

「違うの?久保先生んとこの後藤智也さん。今、ドクターの二年生かな?こないだも大政さんの調製記録を届けに来てくれたじゃん」

 そこまで言われてもピンとこない咲来を見て、安村は話を終わらせようとした。

「あっ、え?あれってその人が?」

 咲来はやっと、『遅くまでお疲れさま』のポストイットが付いた調製記録のことを思い出した。咲来はそれを、眞野が届けてくれたのかと思っていた。

「こないだもって、他にも何か?」

 前のめりになって尋ねる咲来に、安村は面倒くさそうに背を向けた。

「エントリーシートだっけ?ずっと前にも届けてくれたじゃん。大政さんって、後藤さんからお馬さんって呼ばれてんだね」

 どうでもいいけど、というように、安村は研究室の中に戻っていった。

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