第17話

「サオリ、やめろ」

 そこに当の眞野が現れた。

「ラボにまで乗りこんで、何を考えてるんだ」

「それはこっちのセリフよ。こんな若い女にうつつ抜かして、別れてくれって、何のつもりなのよ」

「だから、本気だって言ってるだろ。本気で好きになってしまったんだ」

「それをうつつを抜かしていると言うの。あなたがシュークリームを持って帰ってきた時からおかしいと思ってたわよ。何なの、あのポストイット。人の旦那にちょっかいかけてるようにしか見えなかったわ」

「大政さんは関係ない。俺がーー」

「眞野先生、ちょっと、よそでやってくれないか」

 教授が声を荒げて制止すると、眞野はハッとしたように口を閉じた。

 そして、咲来の方に歩き寄った。

「迷惑をかけてすまない。君の悪いようにはしないから」

 そう言って、咲来の肩を一つ撫でた。


 ジンジンと熱を持つ頬を押さえて、咲来は、急速に気持ちが冷めていくのを感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る