第13話

「投与に行ってたのか」

 研究室に戻った咲来を、帰り支度を整えた眞野が待ち受けていた。

「君が最後だな。風が出ているから、車で送ろう」

 眞野の顔を見た途端、咲来の目から涙がポロポロとあふれた。

「なっ、どうした」

「すみません……」

 背中を向けて泣き顔を隠す咲来の肩に、眞野がそっと触れた。

「何があった?」

 優しい声だった。

 眞野のそんな声を、咲来は聞いたことがなかった。


「すごい薬効が出たんです」

 嗚咽の合間にようやくそれだけ言うと、咲来は中腰でパソコンを操作して、解析結果を眞野に見せた。

「すごいじゃないか」

「でも」

 涙で声が潰れた。そんな咲来の背中を、眞野が優しくさすった。

「でも、薬にできない可能性の方がずっと高くて、そう考えたら、何のためにマウスを痛めつけてきたのか、分からなくなって」

「薬にならなくたって、科学には貢献できるだろう」

 しゃくり上げながら涙の理由を説明した咲来に、眞野はすぐに言った。

「大政さんが出した研究データによって、腎臓病の発症メカニズムの解明が飛躍的に進むかもしれないし、それ自体は薬にならなくても、間接的に画期的な新薬の創出に貢献できるかもしれない」

 だから泣くな、と眞野は咲来の耳元で囁いた。

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