第10話

眞野に娘がいることを知ってから、咲来は夕方の時間を狙って准教授の居室を訪れるようになった。


「えー、目分量でメタノール入れるとか無茶苦茶じゃないですか。ちゃんと転写できてたんですか?」

 眞野の留学先での話を、咲来はどこまでも掘り下げて聞いた。

 眞野の方も、聞かれるままに饒舌に語った。


 それでも、20時になると眞野は必ず、

「もう遅いから帰りなさい」

と言って、自分もいそいそと帰り支度を始めるのだった。


 ーーズルい。


 咲来は、顔も知らない眞野の娘に、嫉妬していた。

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