第6話

15分くらいで咲来の住む街に着いた。

 公園のベンチに人影が見えて、咲来は嫌な予感がした。

「ここで、ここで停めてください」

 慌てて眞野に告げたけど、車はあっという間に公園を通り過ぎてしまった。

「ここでいいのか?家はもう少し先だろう」

 そう言いながらも、眞野は車を路肩に停めた。

「大丈夫です。本当にありがとうございました」

 咲来は早口でお礼を述べて、急いで車を降りた。

 でも、もう遅かった。


「誰なの?」

 助手席のドアを閉めようとした咲来の手を掴んで、咲来の母親が運転席を覗きこんだ。

「咲来ちゃんに何をしたの」

 男が座っているのを見て、ヒステリックな声をあげる。

「ママーー」

「咲来ちゃんは何も言わなくていいのよ。警察呼ぶわね。ママ、咲来ちゃんに何かあったら生きていけないんだから」

 娘に説明する隙を与えずに、咲来の母親は携帯電話を手にした。

「違うの。聞いて、ママ」

 運転席のドアが開いて、眞野が車から出てきた。

 それを見て、咲来の母親はますますパニックになった。

「こっちに手を出してみなさい。もう警察に繋がってるんだから、全部聞かれるわよ」

 眞野に向けて携帯電話を突きだして、咲来の母親はそんなハッタリをかました。


 眞野は両手を上げて、小さく頭を下げた。

「警察にかけていただいて結構なんですが、僕はお嬢さんが通っている大学で准教授をしておりましてーー」

「まあ!」

 眞野の言葉に、咲来の母親はいきなり素っ頓狂な声を出した。

「咲来ちゃんの先生だったの。それはまあ、大変な失礼をいたしまして、ごめんなさいね。ごめんね、咲来ちゃん。こんなママを許して。ごめんね。許して……」

 咲来にすがりつくように、咲来の母親は何度も謝罪の言葉を口にした。

「いえ、僕の方こそ、大事なお嬢さんをこんなに遅い時間まで大学に拘束してしまい、指導官としてお詫びいたします。今後は重々気をつけますので」

 全く非のない眞野が、そう言って深々と頭を下げるのを見た時、咲来は、恋に落ちる音を聞いた。

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