第8話 龍との衝突

ケルカが龍と対峙し、いかに戦うか考えていた時、海の方からなにかが接近してきた。


「ケルカ!無事か、情報共有を!」

 

 大きな砂ぼこりを起し、現れたのは、父であるアルトールであった。遅れて兵達も到着する。


「はい!雷竜を屠ったのは上空の龍で間違えありません。そしてあの龍は恐らく会話が可能です。」

「会話が……なるほど。なら嘘をついてしまったな。それほどのとは4回も殺し合った覚えはない。」


 父が神妙な顔をしながら呟く。そして歯を食いしばるような顔をしながら言う。


「お前ら、死ぬ覚悟はあるな?」

「「「もちろんです」」」


 誰も声を荒げたりはしない。当たり前である、目の前の脅威は歴戦の猛者全員が理解している。

 本当に時折、魔物は知能が発達している。大きさ関係なく突然変異のようにそうしたものは存在する。昔はすべての生物が話せたという神話もある。

 そして、話す魔物は例外なく強力である。上空の龍、龍王とも言えようその姿、あれは間違いなく人を滅ぼせるものである。あの魔力と生物としての大きさ、それに合わせ知能があるのだ。


「状況を見て俺は国に帰る。」


 悔しさの滲み出した顔でそう告げる。

 国の魔物を弾く結界もあれには通じるとも思えない。ならば、あれは軍を編成して討伐しなくてはいけない。

 そして何より、その戦の前に国最強を失うにはいかない。


 相手を把握すればすぐに戻り、対策を考えなければならない。本来は今すぐ行くべきだが、情報を取る必要、そして娘を置いていけない本音、それは人の親としての最後の矜持であろう。


「(増えたな。まあ来るなら来なさい。)」


 全員の頭に響くその声を聞き、足が震える。

 空を見つめる。あの巨大な龍は空そのものと勘違いしてしまうほど大きい。


「では行くぞっ!」


 全員が飛び立つ。


「(その大男以外は……いやそれも気になるな。)」


 爪をこちらに向ける龍、大きな魔力を感じる。

 何かが飛んでくる、その瞬間視界から兵士達が消える。


 振り返ると、彼らは気を失ったかのように、無力に落ちていく。


「なにが……?」

「行くぞケルカ!」


 仲間の心配をするケルカにアルトールは檄を飛ばす。


「戦場に来たからには帰れないと思え!仲間を思うより、命のある自分のすべきことを考えよ!」

「っ、はい!」


 父の言葉にすでに儀礼では無く、戦場にいることを認識する。

 切り替えて、空へと向かい、爪を避けて雲を抜ける。


 黒い龍の顔は近くで見ると、地上からより何倍に思えた。天から降ってきたように佇み、体は遥彼方にあり、尻尾なんて見ることすらできない。

 体は魔力が溢れて出るかのように、紫色に輝いてる。


「(来たか。お前らはそこそこ見どころがあるな。)」

「そらどうも!あんたは何をしてるんだ?」

「(さあな、お前らこそ何をしに?)」

「お前を倒しにじゃないか?」

「(そうか、なら来なさい。)」

「言われなくてもな!」


 父はまるで大木のような大剣を握りしめ切りかかる。遅れまいとケルカも二刀を使い力強く切る。


 父の大剣は龍に届かない、いや防がれた。

 ケルカの刀は龍に届きはしたがまるで手ごたえがない。ほんの少し鱗にめり込めたかどうかだ。


「(ふむ、やはりそっちは多少危ういな。女の方は……弾けなかったか?やはりそれはいつかのものか?)」


 龍は何事もなかったかのようにそう言う。


 「ケルカ……すまんが……」

 「わかっています、時間は稼ぎます。」

 

 もう勝敗は決している。ここでアルトールを失うことだけは避けなければならない。覚悟を決める。

 

「(まあ、待て。お嬢さん、それはどこで拾ってきたんだ?)」

「え?」

「(それほどの武器だ、大陸の真ん中の方か?それとも地下か?)」

「……いえ、これは信頼する職人が作ったものです。」

「(……嘘はついおらんな。)」

 

 急に殺気が感じられなくなる龍、しかし油断はできない。

 すると竜の腕に光りの玉のようなものが現れる。


「あれは?」

「(まあ、敵対したからにはケジメだ。なんとか耐えてくれ。)」


 瞬間、視界を奪われた。とにかく防御魔法を展開する。雷鳴に暴風、そして閃光。

 死を直感的に考えさせられるような魔法だった。


 目を開く、そこには先ほどから一転し、雲一つない光景が広がっていた。


「さて、耐えたのならまあいいだろう。許す。」

「え?」

「こちらの方が会話は楽だろう。人間だと声を出す……だったか。」


 龍が人のように口から言葉を発する。


「さて、先ほどの魔法に耐えた、多少鱗も傷ついたしこちらの負けという事で今回は終えよう。」

「はい?」

「引いてやるということだ、だからお嬢さん、質問に答えなさい。その刀は誰が作った?」


 龍が嘘をついているわけではないだろう。だがいきなりの問いに答えていいのか、タローに危害はないのか、様々な憶測がよぎる。


「それはタローってやつが作った。」

「お父様!?」

「タローというのか?」


 そんな中答えたのは父のアルトールであった。


「タローか。うん、いいな。君たちの国の人か?」

「はい、あのどうなさるんですか?」

「ん?なに取って食ったりはしない。ただ気になった。いい鍛冶師だ。君もいい戦士になるかもな。」

「ありがとうございます……」


 どうにも褒められた気がしないがなんとかこの場はなんとか納まりそうである。


「しかし、負けか。久しぶりだな。あまり勝ちは譲らないのだが。」

「え?いや、勝ったわけでは……」

「それもそうか、確かに私より弱い君たちじゃダメだ。」


 そもそもこれより強いのが他にいることは考えたくないのだが。背中に変な汗が流れているのを感じる。


「だが気にいった。タローに会おう。」

「え?」

「なにちょっと上から話すだけだ。大丈夫、人間に危害は加えない。」


 それなら問題ないのだが。いや問題なのか?

 ただ脅威が去ったというなら大戦果である。


「では身を引こう。また頭の中に話しかける。」

「えっと……わかりました。」


 それだけ伝えられると、龍は空のさらに奥へと消えていった。

 できることならもう関わりたくないものだ。


「とりあえず、降りるか。」


 父からそう言われるまで、呆然としていた。

 龍は丁寧な態度ではあったが、傍若無人と呼ぶべき話の運びに、父と振り返りながらも、本当に終わったのかまだ疑問が残っていた。


 島に降りると、兵たちは怪我をしているようではあったが、命に別状はないようだった。


「飛竜を呼び戻そう。」


 父がそう告げると、飛竜はすぐに島まで来た。

 タローはまるで自分にことのように心配してくれていた。本来は危険に巻き込んで謝られてもいいことなにのに。


 色々と説明したかったが、とりあえず兵士達の救護が第一であった。タローにはあとで説明しようと思う。


 「(お前があの刀を作ったものか。)」


 存外龍との再会は早かった。

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