第7話 ケルカから見た鍛冶師

思い返せば、ケルカのここ最近は多くの驚きがあった。


 「ケルカこの鍛冶師のとこに行きなさい。」


 父のファメト・アルトールから突然そう言われ紙を渡された。


「あの父上、鍛冶師はジロー様に頼むはずでは?」

「頼んでいたのだが、ジローからそっちに変えてくれだと。なんでもあいつのとこの小僧らしい。」

「お弟子さんですか?」

「ああ、まああいつを継ぐことができるんだ、腕は保障しているから大丈夫だ。」


 父は少し不機嫌そうにそう言っていた。ジロー様を信頼しているからこそ、頼みに答え、信頼しているから本人がやらないのに納得できないのだろう。


 次の日さっそく教えられた、鍛冶屋に向かった。

 その鍛冶屋には看板があった「武器鍛冶屋一極」、大きな筆で書かれたその看板は振り返られるほどの迫力。

 父から伝えられた通りならここである。


「(大丈夫でしょうか。)」


 父には鍛冶師の信頼を得るのも、必要なことであると言われた。

 

「でも、ジロー様のご子息ですよね。」


 鍛冶師ジロー、貴族の間では有名な鍛冶師だ。軍の上官達を中心に、多くの貴族を担当する武器鍛冶師。直接話せたことはないが、大貴族の父にも一定の発言力があるほどの人物。その息子である人の信頼を自分で得られるだろうか。

 不安があるがそんなことで足踏みをするわけにはいかない。思いを胸に店へと入る。


「奥にいる?にしてもすごい……」


 入ると目を見張るほど武器が並べられていた。

 重厚な剣やレイピア、どれも魔石の質は高いとは感じられないが、質の高さは見て取れる。

 おそらく軍などでもある程度の階級に渡されるほどだ。


「(腕は間違いなく高い。)」


 国でも有数の鍛冶師のジローに担当してもらえると思っており、最初は少し残念だったがこれなら十分いい武器をきたいできる。


「(なんなら今回この置いてある武器でもいけるんじゃ。)」

「いらっしゃい。」


 そこには丸くて大きな男がいた。思っていたよりも柔らかな印象の人だった。お腹も柔らかそうだった。

 タローの方に近付きながら言葉を考える。緊張移しているのか言葉が出ない。

 

「あの……武器の依頼をしにきた……。」

「ん?ああ、依頼かい。大丈夫だよ。」


 そのあとは武器の依頼について話を進めた。

 見た目に違わない優しい人物であった。

 二振りの刀を頼んだが、彼ならきっと良い物を作れるだろうという安心感があった。


 一月ほどだろうか、彼から完成の知らせが届いた。

 すぐに迎えを出し、届けてもらった。


 家に来た彼を案内する。彼は不思議そうに屋敷を観察してた。


「(あれほどの方のご子息ならこういった場所も経験あると思っていたんですが。)」


 彼は貴族の家に慣れていないようだった。彼の腕ならこれから何回も来ることになるだろうに。

 彼と話すのは楽しかった。しかい、自分は大事な儀の途中である。

 裏庭に行きつくと気分を入れ替える。


 彼に今からの事を話すと彼は優しい笑顔で言った。


 「僕の作った武器なので、大抵なんでも切れます!なので……たぶん普段通りのケルカさんの実力なら大丈夫です!」


 そんなことを言った。恐らく自分の背中を押してくれているんだろう。

 優しい人だ、貴族社会だと生きていけないと思う。

 そんな彼を見てついつい笑ってしまう。笑いすぎて涙が出てきていまう。


 その後は父が来て、さっそく刀を試し始めた。


 とても使い心地がよかった、初めて使ったとは思えない。

 魔法も出したが異次元だった。

 単純な使いやすさもそうだが、それ以上に二振りの感覚。


 魔石は加工すれば若干ではあるが純度が変わるものだ。だから同じ魔石から作った武器でも、多少は魔法の使い心地に違いが出る。

 優秀な魔法使いであればあるほど、それは機敏に感じ取るものである。

 それを大貴族アルトールの娘である、無傷の才女・ケルカがほとんど感じないのである。


 空に向かい、魔法を放つ。雲が切れた。


「(え?雲まで届いた?)」


 自分の魔法に驚きを隠せない。自分に合った魔石を父から頂いたが、それにしても相性が良すぎる。

 父の方を見ると驚いたようにタローの方を凝視していた。

 そして父からはあっさりと龍狩りに行く許可を貰えた。


 そして、父はタロー様を龍狩りについてこないか誘った。

 タローは困ったようにこちらを見ている。


「(これほどの腕前の鍛冶師に実力を見てもらえる機会。逃す手はない。多少危険かもしれないが父がいるなら問題ない。)」


 「なに、善意みたいなもんだ、戦いを知れば良い武器もまた作れるだろう。ケルカも、こいつとは長い付き合いになる。いいだろう?」

「ええ、問題ありません。」


 父の問いにすぐ答えた。彼もついてくることを了承してくれた。


 それから彼を使用人に預け、少し刀を振っていた。


「(本当にすごい、どちらの刀か判断できないほど似ている。)」


 最初は弟子に仕事を渡したようにも思えたが、これほどの精工さを出すというのは、しっかりと能力を見て判断したのだろう。

 タローに対する評価を見誤っていた自分に反省した。


 その後、特別なことはなかった。明日のために体を休め、床に就く。強いて言えば、タローが食事の時食べるのに難儀していたのが面白かったくらいだ。


「とても美味しかったです。」


 料理長にそう言う彼は表情も合わさり、まるで子供のようだった。


 朝はすぐに来た。顔を洗い、鎧を着て、庭に出る。

 彼も飛竜のところで待っていた。彼のおかげだろうか、集中とリラックスが丁度よくできていると思う。


 そうして飛竜は飛び立った。

 飛竜の上でも集中はできた。不安がよぎることもあったが刀を見ればすぐ自信がでた。


 島に近づくと飛竜が暴れだし、急いで島へと上陸した。


「島の主がいない?」


 違和感はすぐに感じた。そもそも飛竜が暴れだすほどの時点で予想より相手は強い。

 だが気配がない。大きなドラゴンとなればそれ相応の魔力を感じ取れるはずだ。


「いない?島を出ているのか?」


 あり得ないことではないが、縄張りをわざわざ出るというのは可能性として低い。

 そもそもあの飛竜は怯えていた、強力な何かがこの近くにいるというは間違いない。


 島を観察する。多少折れた木々はあるが、目立っておかしなところは感じない。


 「どうするべきか、とりあえず島を探索するか。」


 強い生物ほど、縄張りに入ってきた者を潰しにくるものだ。もしかしたら自分は敵といて認められないほどの存在かもしれないが。


「いや無い。私はファメト家の人間。ドラゴンに後れは取らない。」


 そう自分に言い聞かせながら山へと向かう。

 山の洞窟の中にドラゴンが隠れている可能性もある。魔力が溢れているなら気づかない可能性もあるだろう。

 足を進めるとおかしなものがあった。丁度山の麓の川が流れる場所。川の真ん中の目立つ大きな岩が地に汚れていた。


「(魔物の争いがあった?でも川の真ん中で争うわけがない。)」


 この島はなにかおかしい、そう言った感覚が拭えない。父へとすぐ知らせるべきと考えた。

 しかし、その瞬間空に大きな魔力を感じた、しかし空を確認する前に海から大きな音がした。


「くそっ!」


 それらを認識すぐ魔法を使い海へと戻る。海水がまるで雨のように落ちてくる。


「あれは……」

 

 海面には本来の標的であるはずだった、雷竜がいた。傷だらけではあるが、間違えるはずがない。


「ということは、あちらが本命になってしまうな……」


 空を見る。視界には一面を覆う荒れった雲、そしてそれらがまるで王に道を開けるように間に大きな穴が、そこには王と呼ぶべき龍がいた。


「龍王?いやあれほどなら龍神の方がいいか?」


 呼び名などどうでもいい。1つわかることは、あれが人を滅ぼすことができる、もしかしたら父っすら、どうにもできないほどの強力な力を持つことである。


「戦わない……とはできないな。あれはどの道、軍人として相手取ら無ければいけないものだ。」

「(なんだ、お主?お前も邪魔するか?)」

 

 頭に響くその声に混乱する。しかし、上を見た時、合ったその目にすぐに納得する。


「もしやあなたの声か、龍よ。」

「(当たり前だ、それより問いを投げたのだが?)」


 その龍は明確に意思があった。


「意思持ちは神話でしか聞いたことがないな。」


 なんとなく死という文字が頭によぎる。その恐怖に対抗するように武器を手に取る。


「(剣を構えるなら、敵か。まぁ来なさい。)」


 勝ちなき戦がはじまる。

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