第5話 この世界は美女の武器がデカい

ファメト・アルトールという人物を一言で表すなら鬼、二言目に出るのは人外。これを伝えれば、大抵の人は理解できるであろう存在感。

 鎧と勘違いするほどの筋肉に巨大な体、そして無数の傷。片目が傷で塞がっているがそれでもこと足りる眼力。泣く子も黙るとはこのことだ。


 噂というか事実であることとして国1番の幻獣狩りである。なお鬼みたいだが、本当の鬼より全然怖いらしい、というより鬼の一派を潰した事があるらしい。


「で、どうなんだ?作った刀はそんないい武器なのか?」

「えっと……それはもうとってもですね。」

「そうか、そうか。それはよかった。エセ鍛冶なら潰さなくてはならなかった。」


 潰すとはなにをだろうか。できれば店であって欲しい。この鬼ならたぶん人くらいなら料理感覚で圧縮してしまいそうだ。


「なら早速見せてもらおうか、そのとってもな刀を。」

「ええ、そうですね。」


 そう言うと、先程の甲冑の兵士が刀を運んできてくれた。あんな重いのをなんなく運ぶ姿に誰も驚かない。

 

 大きな木箱を開け、収めた刀を二本見せる。


「二刀共に刃長は約2.5メートルほど。預かりました龍の心臓を余すことなく使わせて頂きました。純度45を一切減らしておりません。龍の力を十分に発揮できると思います。」


 刃は鋼色をした、長く、しかし薄く研ぎ澄まされた、無駄のない刀。

 自身を持ち、鬼の目を恐れず覗き込むように相手を見ながら説明を続ける。


「注文通り装飾はなく、見た目もシンプルに最低限にいたしました。刃の出来も、この強度ならばそう簡単には刃こぼれも無いと思います。」


 興味深く刀を覗き込むケルカと品定めするように自分を見るアルトール。先に口を開いたのはアルトールであった。


「どれ、ケルカ。さっそく振ってみなさい。」

「はい、お父様。」


 そうケルカに促す。

 ケルカはまず一刀を手に取ると、片手で持ち上げ、横に大きく振り払う。

 一瞬の風の音ともに庭中の草たちが揺れる。恐らく100キロなど余裕で越える刀なのだが、棒を振り回すかのように刀を扱う。


「すごく、馴染みますね。」


 彼女は刀を見ながら驚いた顔をして言う。


「なら2本目も試してみなさい。」


 アルトールは静かにはっきりとケルカに伝える。当主としての責務を果たしている。こういったとこは親子はよく似ているのかもしれない。


 ケルカは二刀を持っても一切振りが遅くなることもなく、むしろ動きが洗練されているように感じる。

 よく二刀流は一刀流に比べ、速さを比べられるものだが彼女にはそうした欠点などはないように見れた。


「魔法を試してみても?」

「あぁ、魔法の指定はしない。庭が壊れなければなんでもいい。」


 武器として一流でも魔法使いに魔法を使わせなければ意味がない。これを乗り越えれば彼女は合格ということになる。


 ケルカが何かを唱えると刀身が光りだした。そして刀を振るう、舞踊のような美しさを感じる。またなにかを唱えると刀身が雷を纏ったように変化する。エンチャントというやつだろうか。


 そう思っていると空に向かい大きく刀を二刀振るった。太陽を隠しそうになっていた雲は、3つに別れ、間からまた太陽が覗いてきた。


「(斬撃を飛ばす魔法ってあるのか)」


 自分の作った刀でなんだかロマンを1つ達成した気分になる。


「ふぅ……素晴らしいです。両方どちらも違和感がない。まったく同じ2本を扱っているようでした。魔法も違和感なく、楽に出せます。」


 100点満点で120点を頂いたような褒め言葉だった。


「うむ、これなら問題ないだろう。」

 

つまるところ、当主殿から合格を頂けた。なんかこちらを睨んでいるような気もするが。


「では明日に、龍狩りの試練を執り行う。いいなケルカ?」

「はい、もちろんです。」


 淡々とやり取りを行う二人。貴族の儀式的な面があるから、こういった形式ばったものだと思うが、にしても龍狩りを明日とか、遊びの約束でもないのだから準備期間とかないのだろうか。


「おい、タローよ。」

「はい?」

「龍狩りの試練、お前もついて来い。」

「え?」


 アルトールから唐突な誘いが来た。片道キップだったりしないだろうかこの誘い。


「なに、こんないい刀を仕上げてくれたんだ。試練を見届ける権利はあるだろう。」

「いや、私がいったらたぶん巻き込まれて死ぬのでは?」

「そのくらい俺が守るさ。それにお前の父親も使われるとこまで知るべきと言っていただろう。それに初仕事の結果は気になるだろう?」

「それはまぁ、そうですが。」


 父を出してくるとなると無下にもしずらい。実際に自分も仕事の行く末というのは気になるのも事実である。

 ケルカさんの方を見ると彼女もこちらに視線を向けて、難しそうな表情をしていた。まぁ一般人だから、なにか事故があったら大変だ。


「なに、善意みたいなもんだ、戦いを知れば良い武器もまた作れるだろう。ケルカも、こいつとは長い付き合いになる。いいだろう?」

「ええ、問題ありません。」

「え!?」


 問題ないらしい、こちらとしては問題だらけなのだが。まぁケルカ自身が龍狩りは初歩と言っていたし問題ないものなのかもしれない。


「では、行かせていただきます。」

「おお、そうか!」


 恐らく大丈夫だろう。というか冷静に考えれば国1番の幻獣狩りとその娘、そして相手は初歩の龍らしい。たしか島の主らしいが恐らくは大丈夫なんだろう。


「(やっぱり不安だ。)」


 眼前にいるのが国のトップであってもタローの不安が掻き消えることはない。しかしそんな物を気にするほど小さな気配りのできる男ではないのがファメト・アルトールであった。




 なんとその後、明日の朝には出るからと屋敷に泊めていただくことになった。客人としてしっかりもてなしていただいたのだが、高級なものには一切の経験がなく、用意されるもの全てすごいと言うしかないような、自分の人としての乏しさが出てしまったのでなかったことにしようと思う。


 

  ということで一瞬の内に龍狩り本番の朝になってしまった。国の北の島ということだったが、飛竜で飛んでもそこそこの時間を要するらしい。


 朝に出発となり飛竜の前に集まる。

 ケルカの顔は少し集中しているが、どこかリラックスできているようにも見える。鍛冶もそうだがあのくらいの表情の固さの時が1番ちょうどいいものだ。

 ならば、あえて声をかけたりはしない。彼女も集中していのだ、声をかけるのは祝の時で良い。


「諸君、さっそく乗り出そうか。」


 アルトールが号令をかける。兵士数人とケルカ達が飛竜に乗り込む。この家の者でない自分からすれば、ケルカ以外は皆、緊張を感じない。淡々と仕事をこなすように乗り込む、仮にも龍の根城に向かうのだ。


「(本当に場違いだな。)」


 飛竜に乗り込みながらもながらそんな事を考える。アルトールに言われ、誘いに乗ったが、一晩開け冷静になるとやっぱりおかしいのでは、という疑問が出てくる。


「では、出発します。」


 もう後は疑問が杞憂に終わることを願うだけになった。


 飛竜の上では特になにかを話すということはなかった。ケルカの事を眺めていたが、真っ直ぐ先を見ていた。時折、魔法で武器を出して確認しているところから落ち着かない気持ちもあったんだろうが背中が昨日より大きく見える。きっと大丈夫なのだろう。


 1時間は過ぎただろうか。空を覆う雲が黒く、嫌な天気になってきた。嵐が来るだろうか。


「ケルカ、もうまもなくだ、準備はいいな。」

「はい。出来ております。」


 どうやら、とうとう試練の始まりが来るらしい。遠くに島の影が見える。恐らくあれが例の島であろう。

 ケルカさんも深呼吸をし、本番の緊張感が場に流れていた。

 しかし、その空気を崩しにかかるように、突如大きな揺れが起こる。


「申し訳ありません!飛竜が暴れ出しました。」


 飛竜はまるでなにかを知らせるようにか、それとも逃げ出したい焦りだろうか、大きな声で叫び出し、体を揺らす。


「山の主に気づいて怖気付いたか。そこまで弱いやつではなかったと思うが。仕方ない。ケルカいけるな!」

「はい!」


 ケルカはアルトールに言われるのも束の間、武器を抜き、全力で走り出した。

 そして飛竜から飛び立った。降りたのではない。まるで大砲の如く、超スピードで島に向かっていった。


「飛竜を落ち着かせ高度を落とせ!この距離なら島の様子も確認できる!準備しろ!」


 アルトールが簡潔に指示を出し兵士達が慌ただしく動きだす。


「タロー、お前はケルカと、自身の仕事を信じ、ドンと構えておれ。」


 こちらに発破をかける余裕がある。流石に歴戦の猛者はこうした時の焦りなさは頼りなる。

 島に向かったケルカをの方角を向く。もう見えないほど遠くに行ってしまった。


 黒い雲は島を中心にするように大きく膨れ上がる。雷の音が次第に増えていく。

 あの島の主は雷竜だと言っていたことを思い出す。あの雲は島の主の能力かなにかなのだろうか。

 

 ただ自分にはケルカの勝利を祈ることしかできない。

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