第4話 貴族の家は思ったより人間サイズ(デカいけど)

ケルカさんの家、つまり大貴族ファメト家の屋敷まで飛竜で飛んで来た。


 自分に今起きている事実を並べると、頭を抱えたくなるほどには非現実的で、少し鼻で笑ってしまいそうになる。


「タロー様、到着いたしました。お荷物はこちらで運びますので、案内人の方についていくよう、お願いします。」

「あ、はい。」


 普通なら苦労してくる道のりなのだが「ここ、落ちたら命は無いな。」とか考えていたら、すぐに到着してしまった。


 飛竜の乗り心地はとにかくよかった。風を感じなかったし、そういった魔法もあるのかもしれない。


「しかし、デカいな。」


 ファメトの家は、豪邸という言葉が相応しい、大きく、汚れもなく、見るものを圧倒するような屋敷だった。


「(でも、常識的なデカさだな。)」


 わりとなんでもオーバーにデカいこの世界に生きているためか、予想できる程度の大きさだと、なんだか小さく感じてしまう、庭だけで自分の家が何件立つかも想像できないのだが。


 そんな事を考えていると、屋敷の正面から人が出てきた。


「タロー様、来てくださりましたか!」


 ケルカさんだった。今日は長い髪を結っているため、なんだか前と印象が違う。

 そして彼女は小走りでこちらに近づいてきて深々と頭を下げる。

 

「この度は、当家までお越し下さり、感謝いたします。」

「え、あ、こちらこそわざわざ迎えを手配してくださりありがとうございます。」

 

 貴族とは思えぬお辞儀の深さに、更に深いお辞儀で返す。

 彼女は貴族らしさや立ち振る舞いを、一挙手一投足に感じるが、どうも根の性格なのか、とても丁寧に接してくれる。

 作法などに詳しい訳ではないが、この目下の相手への丁寧さは、彼女は貴族でも特別であるというのはなんとなくわかる。


「案内の方は私がさせていただきます。」

「ケルカさん自らですか?」

「はい、タロー様は私の客人です。その義務があります。」


 てっきりメイドとかの案内人が出てくると思ったのだが、貴族の方に案内されて隣を歩くのは、どこかむず痒い。


 そんな事も関係なしに、ケルカさんに連れられて、屋敷へ入った。

 屋敷の中はとても想像通りの豪邸という感じで、あれは武器何本になるのだろうかとついつい計算したくなるような華やかな物があり、それにずっと執事みたいな人が後ろをついてきていた。しいてイメージの豪邸と違ったところを上げるならインテリアだろう。

 いわゆる高級な調度品とか芸術品などがあると思っていた。

 しかし、この家は今にも食いついて来そうな獣の剥製やら、恐らく実際に倒したであろう龍の首、その他魔物のなにかだろう物が廊下に並べられていた。しかもどれもデカい。


「気になりますか?」

「ええ、まぁ珍しいものばかりで。」

「ですね、当家以外では中々眺められるものでないですから。あ、あちらは父が狩った熊の爪ですね。」


 眼の前に綺麗に並べられた爪、どう考えても自分の腕より余裕で大きいのだが、自分の知ってる熊とは随分違うようだ。


「この爪は、薬熊(くすりぐま)という熊の爪で、小柄なんですがとても珍しい、薬草だけを食べる、変わった熊なんです。山奥にいて、滅多に人と遭遇しないのですが調査で見つけたらしいんですよ。」


 本当に自分の知らない熊だが、この爪を持った熊が小柄という認識から解説してほしかった。仮にも自分は町の中でも特に大男なのだが、それよりデカい爪だ、全長はいくつなのだろうか。


「あっちは島守犬(しまもりいぬ)の咥えていた骨ですね。先祖代々1本の骨を咥えて島を守る犬らしいです。なんでも骨から先代の記憶を感じるとか。もうなくなった島のものですが、確かに歴史を感じますよね。」


 確かにすごい、これを使って記憶を繋ぐとは。自分にはてっきりこの家の柱が変な場所にあると思ったのだが骨だった。これを咥えられる犬は別に記憶なんて無くても島くらい守れると思うが、外敵もどうせデカいんだろう。


 その後も雲から糸を垂らす蜘蛛やら、甲羅の上にジャングルがある亀など、色々と想像できないスケールのものを立ち止まることもなく、当然かのように紹介された。

 

 そんな新鮮な体験をしながら歩きついたのは裏庭だった。


「少し話しに花を咲かせすぎてしまいましたが、本題の武器です。早速ですがここで武器の試用をさせていただかます。」


 ケルカさんの声のトーンが変わる。


「タロー様には特別に何かを求めることはありません。ただ見て何か不具合が無いかの確認です。」


「はいっ。」


 ケルカさんの変わった雰囲気に少し気後れしてしまい、焦って声が裏返る。

 先程までの笑顔と売って変わるこの感じ。最初に会った時も感じたが、彼女は貴族としての責任を強く感じているのだろう。


「父がもうすぐ来るはずです。龍狩りに行く許可は当代である父からいただかなくてはいけません。つまりは、これは私の通過儀礼の一環です。ですのでタロー様は緊張する必要はありません。職人としての仕事をこなしていただければ大丈夫です。」


 彼女は優しく微笑む。彼女の手は、本当に少しであるが震えている。

 当たり前だが今回の依頼は成人の儀のためのもの、つまり家督という重い物がかかっているのだ。緊張しないわけがない。その上でこちらに気を使ってくれているのだ。

 

 本当に優しい人である。


「あのですね、ケルカさんっ!」

「え?はい。」


 こんな人になら、少しくらい上手くいくよう願いたい。そんな少しの願望からか口が動いてしまう。


「僕の作った武器なので、大抵なんでも切れます!なので……たぶん普段通りのケルカさんの実力なら大丈夫です!」

  

 そもそもケルカさんの実力も知らないのだが、取ってつけたような励ましを言ってしまう。本当にただの気休めだ。


「ふふっ、ははは!そうですね!」


 彼女は大きく笑った。貴族としてではなく、1人のケルカという人間として大きく笑った。


「なら、大丈夫ですね。自信を持っていきます。」

「はい、僕の作った武器なら大丈夫です。」


 笑いすぎたか涙を拭うケルカ。緊張を解くことができたのならよかった。


 そう安堵したとき右肩が急に重くなった。まるで岩でも、のしかかったような、いくら仕事をしても感じたことのないような重み。

 

「そんな良い武器を作ったのかい。」


 咄嗟に振り向く。


 そこには鬼がいた。正確に言えば鬼ではないよが、巨大な体躯と迫力、例えるなら鬼が適切だろう。


「ジローのとこの小僧もでかくなったな。」


 ケルカの父であり、ファメト家の現当主ファメト・アルトールがいた。

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