第3話 この世界は客のスケールもでかい

ケルカさんから刀の依頼を受け、早速制作を始めた。

 元々店を始めた後は、既製品作りを基本にして名前を売っていこうと思っていたのだが、いきなりの大仕事になっていた。


「しかし、これどうしようか?」


 眼前の巨大な岩を眺めながら、疑問が自然と出てしまう。


 ケルカさんから預かった魔石、龍の心臓だと言っていたが、大男以上の大きさと存在感を放つ、岩石と言ってよいそれにはどうしたものかと頭をかく。


「魔石なら……基本の方法でいいとして、これはかなり時間がいるな。」


 この世界での鍛冶師の制作方法は至ってシンプルで、叩くと研ぐ、基本はこの2つでしかない。

 前世で鍛冶との大きな違いは、鉱石を溶かすという段階がない。正確には小さな魔石ならそうしたこともするのだが今回のような大きな魔石だと違う。

 純度を変えずに、武器に形を変えるため、ひたすら叩く、つまりは圧縮していくのだ。ようは鍛錬と成形の方法がほぼ同一なのだ。そして鍛冶師の腕の良さはここで純度を下げずにいかに武器を作りあげるかである。

 基本的に魔法でかなりの部分を省略できる世界であるがここだけは明確な技術が必要になる、ただ力任せに叩けばいいものではない。


「しかし、それにしてもこれはどうなんだ?」


 ただし、眼前の巨大魔石はそれらと同列に語ってよいものでないと感じさせる。


「もしかしたら、父さんは俺だから、仕事を回してくれたのかもな」


 父は大貴族が重宝する程度には優秀であり、自身の住む国であるアレウス王国でも指折りと聞く。基本的な技術であれは自分は並ぶのは先の話しだ。

 しかし、明確に自分が父に勝るところが1つある。それは「力加減の上手さ」だ。

 当然父は優秀だ、その力加減も当然のように素晴らしい。しかし、自分は身体強化をした上でも力加減が上手い。タローは自身の現在をそのように考えていた。


 基本的に魔法がありふれるこの世界、頂上的な魔法はごく一部の人だけの物だが、ちょっとした火を出したり、少し速く走るくらいなら誰でもできる。だがコントロールができない。魔法の調整は魔法使いの修練の賜物だ、一般人は少し強くか最大限かの2択くらいしかできない。


「つまりは俺に目一杯精密に叩けということか?いきなり難しい問題を与えてくる父さんだか。」


 しかし、タローは身体強化した上でもその絶妙な調整ができた。この天性の感覚、前世からのものか生まれ持ったものなのかはわからないが、これに限れば自分は1番の鍛冶師とも言えた。だからこの仕事もこちらに来たのかもしれない。


「まぁ叩くのはどうにかはなるだろう。とりあえず二刀を作るとなると形も特殊だな。」


 2振りの刀を作るにしても魔石を割れる訳ではない。なぜなら魔力が発散して純度が落ちる。つまりどうするか。


「パピ◯式だな。」


ということで2つで1つの刀にすることになった。


「久しぶりにアイス食いたいな。」


 食文化は悪くない国なのだが、ああいった甘味を思い出すとどうしても口惜しくなる。特に鍛冶師という暑い環境で過ごしているとアイスクリームというのは喉から手が出るほど欲しい。


「この仕事を終えたらなんか美味い店に行くか。」


 目標もできた、作り方も考えはある。椅子に座り設計図を引く。注文は刃渡り以外にも色々とあった。あっちは命懸けのことをする、ならばこの武器は彼女の命そのものだ。自分も命を燃やす思いで仕事をする。


 その後はひたすら魔石を叩いた太陽が10回は登った。

 身体強化をしながらも丁寧に、鋭く、完璧と思われる場所を力強く叩く。腕を振り上げる続けるうちに、どんどんと重くなっていく。しかし、感覚までを失う訳にはいかない。完璧な感覚を求められるのだ、どんなに辛くとも感触だけは丁寧に感じる。


 叩き続けることで、大岩のような魔石は薄く、長い楕円のような塊になっていた。


「こんなに硬くなるものなのか。」


純度が高い魔石は当然硬くなる。これほど高純度を叩いたのは初めてではないが、この大きさを扱っことはほとんどない。作業を進めると、どんどんと硬くなっていく。不純物が消え、圧縮された魔石はよく宝石だと言われるがこの純度だと、鏡のようだと言った方が確かだろう。


ある程度の形になってきたら成形していく。基本これも叩いて行うのでシンプルだが、刀身は形で切れ味も大きく変わる、気の抜けない作業だ。


「集中を切らすな。」


 自分に暗示をかけるように言葉を出し神経を研ぎ澄ませる。そんな作業に半日を使う。


 


 依頼を受け、4週間ほどは経過しただろうか。

 ようやく刀身が出来上がった。鋼色のシンプルな刀身。正直自分には持ち上げるので精一杯の大きさだが、2振りともほぼと言っていい完璧な仕上がりとなっていた。


「我ながらよくできたものだ。」


 本来、同じ素材と言っても2振りにわけるとどうしても純度が多少別れてしまうものだ。それを今回はほぼ完璧に均一化することができた。やはり自分の才能があるのかと、少し浮足立ってしまう。


「いや調子に乗るのは完成してからにしよう。」


 刀身が出来上がればほぼ完成と言っていいが、まだ柄や鞘などが必要になる。

 デザインに関しては割とシンプルな物を頼まれていた。武器のデカさが強さとイコールなこの世界では、武器の見栄えも強さの証として扱い、装飾を施すことを求める人が多いが、彼女は違った。


「武功は自分の力で示したいんです。」


 そんな決意を語ってくれていた。職人としては自分の作った武器を自身の尊厳のように扱ってくれるのは嬉しいものだが、彼女は武器本来の力を求めてくれているようで、それはそれで嬉しいものだった。


 だからシンプルに、色を施さず、鞘や柄も木の色をそのままの物を作った。

 なお、鍔は着けていない。というよりこの世界の刀には、鍔がない方がメジャーである。理由は色々あるが、そもそもこの世界、武器というのは対魔物が基本で、人との切合いを想定しない。なので手の守りのための鍔はあまり必要とされない。


 出来上がれりを見て満足する。前世風に言うなら長身のドスだろうか。これをまだ成人間近の女性が二本も振り回すのだから怖い。


「まぁでも、龍の首くらいなら落とせるだろ。」


 なんだか自分の言葉のスケールまでデカくなってきたことにも気づかなくなってきたが、これなら期待に答えられるだろうという自身は、背伸びしたものじゃないと思う。


「さて、文を出すか。」


 ケルカさんには完成したら文を送ると言っていた。文と言っても魔法で送る文なので手紙というよりメールなのだが。


「いやFAXの方が近いか?」


 生まれる前の、更に生まれる前の物なのでイマイチわからないがたぶんそうなんだろう。


 完成したことを送るとすぐに返事が来た。


「完成の知らせ受け取りました。早速ですが私の家の方に届けていただけますか。迎えの方はこちらで出させていただきます。」


 大事な客には自ら出向くというのは父の教えとしてあり、こちらから届けるとは言っていたが、しっかりと迎えを出してくれるのは、流石は大貴族だ。


「なら今日は店は閉じて向かうとするか。」


 ケルカさんの家は王城の西側と聞いている。

 しかし、タローの店は国でもかなり東側に位置している。大荷物だと考えると馬車だとしてもかなり時間がかかるだろう。

 すぐに準備すると文を送る、するとまた文が帰ってきた。


「ありがとうございます。迎えはすぐ着くと思いますのでよろしくお願いします。」


 すぐ着くとは、今から手配しても馬の準備や移動でかなり移動に時間がかかると考えた。


「貴族だし、まぁ馬も伝えればすぐなのか?」


 貴族ならばパイプも権力もなにもかも桁違いだ、大貴族となればそれ以上のはずだ。きっと前もって準備させてたりもできるだろう。自分の基準で考えるな、自分にそう言い聞かせ、急いで準備をする。


 支度を整えると本当にすぐ、店の呼び鈴が鳴った。


「本当に早いな。」


 急いで店先に向かう。

 なんだか窓がうるさい。今日朝起きた時は涼しいそよ風程度だったのだが、天候が変わったのだろうか。扉の前に立つと、扉も大きく揺れていた。


 「(嵐でも来てるのか?だが日光は入ってきてるぞ?)」


 そう思いながら扉を開けた。


 そこには鎧を来た兵士がいた。自分より大きな兵士だ、久しぶり人を見上げた気がした。


 だかそんなことに気づかいないくらいのものがあった。その兵士よりもがあった。


「えっと……」

「お迎えに上がりました。」


 聞きたいことはそれじゃない。後ろの家なんかよりも大きな巨大生物の方について聴きたい。


「あの……タローさま。」

 

 口を開けて巨大生物に目を奪われていると困ったように兵士に声をかけられる。


「え?あぁ。あの、あれは?」

「飛竜ですが?」

「飛竜ですか……」


 そんな当たりでしょ?みたいな感じで返されても困る。もう5行くらいは説明が欲しかったのだが。


「お荷物お持ちいたします。早速参りましょう。」

「わかりました……。」


 促されるままに飛竜の上に荷物を届け、あっという間に支度が終わる。


「では参ります。」


 そしてまるで馬を扱うかのように飛竜は飛び始めた。

 タローは、飛竜を見たことがないわけでない。この国なら、王城近くや門の外で飛んでるのはよく見る。人が乗ってるのも知ってはいた。


「まさか、飛竜をタクシー代わりにするとは……」


 自分の常識は、思ってたより小さいことを知った。

 

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