ケルカ編
第2話 貴族の客。注文は二刀流、但しどちらも特大の刀である。
記念すべき1人目の客は見たところ、上流階級に思える女性だった。長い黒髪に傷ついていない肌、端正な顔立ちだが成人前の若さを感じる。服も普段街で見かるような生地でないものとすぐわかる。背丈は女性にしては少し大きく感じるが、依頼は彼女自身よりも大きな刀が欲しいというものだった。
「大きさは問題ない、だが予算は大丈夫だろうか?二刀を作るとなると、魔石の用意があるなら問題ないのだが。」
「大丈夫です、魔石の用意は十分にあります。」
「そうなのか?」
緊張している面持ちであるが、そこの言葉には自信があるように見える。
「なら、まず魔石の確認をさせてくれないか?」
魔石とは魔力の結晶、魔物や魔力の溢れる場所から取れる鉱物の一種である。属性など様々な分類ができるが、基本的に価値は純度と大きさが全てである。
純度は魔石がどの程度の単一魔力でできているかで決まる。相場的には純度20前後のであれば上質な魔石である。
「純度はどのくらい?」
「45ほどのものです……」
「ん?」
純度45というのは、見たことないほどでもないが、父の鍛冶場でも年に数回見るかどうかだ。
持ってくるのは基本軍の上役や、冒険者のトップくらいしかない。この女性やはり貴族か何かなのだろうか。
「その父上から与えられまして。」
「ということは、貴族の方ということでしょうか?」
こんな高価な与えられるのは貴族くらいのものだ、しかも娘に与えるということはかなり地位の高い家だと伺える、それこそ大貴族レベルだ。
「はい。名乗っていませんでしたね。私はファメト家の長女、ファメト・ケルカです。」
堂々と名乗り上げる彼女、そしてその家の名前には聞き覚えがあった。
「ファメト家というと、幻獣狩りの家の?」
「はい、ジロー様には、父上がお世話になっております。」
こんなできたばかりの鍛冶場に貴族の方がわざわざ来た理由も理解できた。
父の紹介だ。紹介するにしてもこれほど大物をこっちに寄越すかという話だが。
「ご存知の通り、我が家は大貴族であり、幻獣狩りを生業にしております。」
貴族の事情には疎い一市民の自分だがそのくらいはわかる。この国では、貴族ってのは基本的に軍人として責を負っている。
しかし、大貴族の家は少し違い、それぞれ軍以外に専門の仕事を持つ。有名なものも市民には知らされないものもあるが、ファメト家のは有名だ。
「幻獣狩り」
魔物の中でも特に強い獣や伝説的な生物を狩る人達。ドラゴンを倒し従えたという伝説を聞いたことがある。
父のお客として、ファメト家の当代を見たことがる。異様な巨体であり、巨大な武器が子供のものと思えた。
「私たちの家では任に就く、成人の儀礼としてドラゴンを代々一人で狩るというもがあります。」
この父親に似つかない普通の女の子がドラゴンを倒す姿は一切想像つかないが、たぶんできてしまうのだろう。
「そのため、今回龍狩りとしての武器を求め、依頼を出させていただきにきました。」
「龍狩りの刀ですか……」
まさかの初仕事がそんな大仕事になるとはいっさい思っていなかったと、頭を抱えたくなる。
「とりあえず、用途はわかりました。魔石もそれならそのくらい必要だろう。できたら1つ聞きたいんだがドラゴンってのはどのようなものか教えていただきたい。」
これは素直な興味だった。父に武器を作るなら使うとこも見ろと言われ軍の仕事を見たことがある。
巨大な熊のような魔物を倒していて、魔物がどんなものかはわかってるつもりだが、幻獣と呼ばれる魔物がどんなものかは知らない。
初めての大仕事の目的を、一人の職人として知りたかった。
「ドラゴンですか?見た目などの基本的な話は知っていますよ?私が狙うのは島の主です。」
「島の主?どこかの島の支配者?」
「そうです、国の北にある孤島の主です。山の半分ほどの巨躯で、島の環境から雷竜であると聞いています。」
メートル法が基本の人間に山の半分とかいうスケールので大きさで生物の解説されてもなにも具体性はないが、目の前の彼女はそれが当たり前の世界で生きているのだろう。
「一応聞いておくきますが、うちに依頼でいいんですか?この重要性なら父に話を通せますが。」
「問題ありません。あの方が鍛冶場を構えることを許した人です。信頼できます。」
その信頼は自分にではなく父への信頼ということは、残念なような誇らしいもののような気もするが、こう言われてはやらない訳にはいかない。
「わかった。受けさせ貰う。最高の一品を約束します。」
「ありがとうございます。」
彼女はそういうと少し息を吐き、胸をなでおろす。
「緊張しておられたのか?」
「あぁ、職人に受け入れてもらうのも試練である、と聞いていたもので。すみませんね。」
「いや、構わない。むしろ貴族の方にこちらが無礼もあったと思うのだが。」
「いや、私にそうしたものは不要です。むしろお抱えの名高き鍛冶師の直系です。言葉使いも気にしなくていい。」
父がわりと鍛冶師でも上なのはわかっていたが大貴族に口を聞けるほどと考えると、改めて身が引き締まる。
「わたしも家名のことや儀礼のこともあり、すこし固くなっていた。正直こちらが素なんですよ。」
リラックスした彼女は、大貴族から一人の少女のようになっていた。
「その方がこちらもありがたい。それに君の父も、うちに来たときは友人同士のように話していた。」
貴族のあれやこれやはわからないが、自分にはこちらの方がやりやすい。
「しかし、龍狩りとはすごいな。自分の作ったものがそんなことをできるかも想像つかないもんだ。」
「それはお互い様ですね、私は刀を作ることはできない。つまりは役割分担ですよ。」
「それに龍狩りは初歩です。父は島を切ったことがあるらしい、ご先祖様は大陸を倒したとも聞いています。」
そんなことあるのか?と思うが、世界のどこかでは、うっかり1000年ほど寝ていた巨大生物の上にうっかり村を作ることもあったらしいし嘘ではないのだろう。
本当になんでもデカい世界だ。
「とりあえず、魔石を鍛冶場に出してもらえるか?さっそく仕事にかかりたい。」
「ああ、もちろん。よろしくお願いします。」
彼女との交友も深められ、さっそく目当てのものを確認する。
「しかし、純度45となると他の材料もいくつか必要になるか。」
「え?他ですか?」
「いやだって純度が高いならあまり大きさは伴わないだろ?」
魔石は大体が大きいが純度が低いものなど、両方を兼ね備えるものは少ない。純度45なら、そこまで大きくないだろうから補強するための良い材料も必要になる。
「それなら問題ないですよ。」
自身に満ち溢れた顔をする彼女。少し腕を動かし、何か魔法を唱える。
すると鍛冶場に轟音が鳴り響いた。
「ああ、すみません、地面が少し傷つきましたかね?」
「いや、それは構わない……」
そんなどうでもいいことより、目の前魔石に視線を奪われる。
「これで刀を作るのか?」
「はい?そうですが?父から与えられた龍の心臓の魔石です。」
魔石というより、完全に魔力の固まった岩であったが、こんなデカいのは初めて見た。自分の背丈はあるだろう。魔物の核は魔石だが、ドラゴンにしてもデカすぎるだろう。
驚きのあまり、開いた口が塞がらないが、彼女は続ける。
「これなら、質の高い刀が二刀作れると思います!」
彼女の向ける笑顔には、期待の眼差しと純粋な心しか乗ってないが、自分にはなぜかそれが狂気の沙汰にしか見えなかった。
彼女の存在は自分の思っている何倍もの大きさだ。
「(相変わらず、なんでもデカいなこの世界。)」
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