武器はデカければデカいほど良い、美少女が持てばより良い

三重知貴

第1話 この世界は武器がデカい

       

         武器はデカければデカいほど強い。


 

 理解はできるし、間違いではない。しかし、そうじゃないだろうと言われたら、確かにと肯定する事もできる、前世を思えば、それはそんな考え方だ。


「おい、タロー!ケリスさんがいらっしゃった!剣を持ってきてくれー!」


 父親に呼ばれ、白銀の煌びやかな装飾で飾り付けられた剣を力いっぱい


「今お持ちしますねー!」


 精一杯の力を込めて運ぶ、慣れたものではあるがやはり一苦労である。

 これを振り回しながた戦う冒険者や軍人様というのは果たして同じ人間なのでだろうか。


「よいしょっと、お待たせいたしました。」


 なんとか剣を運びケリスさんにお出しする。するとケリスさんは「おっ」と嬉しそうな顔で早速剣を持ち上げ、刃渡りをよく確認する。


「良い出来だ。試しに振らせて貰っても良いか?」

「ああ、何か違和感があったら教えてくれ。」


 父とやりとりを交わし、店の外に出ると、彼女は剣を振り下ろす。

 彼女が剣を振るたびに風圧でよろけそうになる。彼女の顔色を見ると、これでもまだ本気ですらないのだろう。

 一通り剣を振ると彼女が戻ってきた。


「ジロさん、完璧だ。素晴らしい仕事をありがとう。」

「ああ、またいつでも来てくれや。」


 彼女はここの常連だが、いつもしっかり頭を下げてお礼を言う。やはり軍人の人はそこら辺がしっかりしているのだろう。

 

「お弟子くんも、いつもありがとう。」

「はい。どうぞこれからもご贔屓に。」

「ああ、勿論だ。」


 彼女はそう言うと、剣を魔法で空間にしまい、馬に乗って帰っていった。

 軍服が靡く、彼女の後ろ姿はとても美しい。前世を合わせて、そこそこは生きたが、あれより様になる姿は中々無いものだ。


「さて、タロー、次の仕事にかかるぞ。」

「はい!」


 そうして鍛冶場に戻る。そこには自分の背丈以上の武器達がそこら中に並んでいる。

 前世を思い出しながらこう思う。


「(この世界は武器がでかい)」



 前世の名前は山田太郎。名前を誰でも覚えられるのが長所だった気もする。

 この名前で力士の様な体型だったので某漫画の主人公扱いだった。

 なんで生まれ変わったかは覚えてないが、進路を悩んでる時にテレビを見て、刀鍛冶とかいいなと思った。そして俺には小さすぎるとも同時に思ったが「ならでかい刀を作ろう!」とも考えた事だけは覚えてる。


 そんな事を思い出したのがこっちで生まれて何年か経った時だ。

 きっかけは無く突然思い出した、そして鏡を見た。幼児では立派なまん丸顔の鏡餅体型だった。

 なのでとりあえず小さい頃はいっぱい走った。どうせ二度目なら、細身のイケメンがよかった。出来上がったのは動ける肉団子だったが。


 そんなことで動ける豊満な肢体ことタローは鍛治師の父親のもとでこの世界の違和感に気づいた。

 この世界武器がデカい。ゲームは好きだったので、ファンタジーな世界観は案外受け入れられたし、魔法のおかげで文化レベルは高く、不自由はなかったが、とにかかく武器がデカい。


 デカすぎて父にその事を聞いたことがあった。


「タローいいか、武器は魔石を使い、作り上げる。魔石がいいものだとより強い武器になる。そして魔石の良し悪しは、純度と大きさだ。つまりだ、純度が高い、デカい魔石で武器を作ればより強い武器が作れる。」


 バカだと思った。父親じゃなく世界がバカだろ。

 理論はわかるが実用性を考えたらバカだ。狭い場所とかどうする?そもそもゴリラしか使えないだろそんなもん、という話も子供らしく聞いた。


「いいか、軍や冒険者の魔法使い達は、みんな魔力が高く、自分自身を強化して戦える。だから大きな武器も使えるんだ。」


 つまり、この世界の魔法使いは全員ゴリラであり、魔法ぶっぱしながら巨大な武器を振り回す、野蛮人も驚きのカオスな世界だった。


「それに武器は魔法の触媒だ。魔石の質は命に関わう。そして、それを作る俺達にも、人の命を背負う覚悟が必要だ。」


 ありがたい父親の仕事の流儀も聞けたところで思った。

 これ俺も作ってみたいと。そこから話は早かった。仕事を継ぎたいと言ったら父さんは喜び、知り合いの同業に自慢しまくった。あれは子供ながらに恥ずかしかった。


「何にやけてるんだタロー?」

「いや、父さん。昔の事を思い出してただけだよ。」

「昔だあ?」

「ほら、もう弟子入りから15年くらいだろ?それで昔だよ。」


 そういうと父さんも思い出に浸る様に目を閉じ、穏やかな顔をする。

 

「言葉を覚えてすぐのお前が、いきなり俺の仕事に興味持ってくれた時は、それはもう嬉しかったさ。」

「知ってるよ、あんだけ自慢してりゃ。」


 色々大変だが、こういう人生も悪くないと思える仕事だ。初めて作ったのは武器というより包丁みたいだったが、物を作るという達成感が自分には合っていた。


「なあタロー、相談事なんだがちょっといいか?」

「どうしたんだよ、改まって?」

「まあ座れや。」


 父さんの、穏やかだが少し真面目な顔に緊張する。


「タロー、お前は15年、しっかりと武器鍛治師としての修行をしてきた。18にもなるしもう大人だ。ここらで次の段階だ、お前独立しないか?」

「え?」

「お前の鍛治師としての腕は俺が認めてやる。ケリスさんの剣も、かなりお前が面倒を見た。だが鍛治師ってのは技術だけじゃねえ。金勘定に取引、色々こなしての一流だ。」

「ああ、わかってる。」


 ようは独り立ちして一流になれって事だ。ただそれならここで学ぶ事ができるものも多い。


「俺も歳が来たらその内、修繕で手がいっぱいになる、お前は作りたいもんがあるだろう?俺には無い技術をお前は持っている。なら俺を待つ必要はない。」


 この世界の武器の大きさを考えると、作るというのはかなり負担がある。修繕するのも十分大変だが一からと考えると負担は何倍にもなる。


「……ああ、俺は最高の武器を作りたい。」


 それに自分が作りたいのも事実だ。やはり鍛治たるもの自分の最上級を求めたい。


「なら良しだ。ずっとここでやってきたお前なら客もつくだろう。」

「ああ、ありがとう。」


 なんだか顔が熱くなってくる。我慢しようとすると涙が逆に止まらない。


「タロー、これはまだ始まりだぞ?今泣いてどうするよ。」

「そうだな、ごめん。」


 優しい父の言葉に、涙を拭い決心する。


「不肖、鍛治師タロー、頑張ります!」



 

 そうして俺は、鍛冶場見習いから、1つの鍛冶場の主人になった。


「こんなもんでいいかな。」


 掲げた看板を見上げる。


「武器鍛冶屋一極」


 鍛冶場を作るにあたり店名を考えた。父さんは鍛冶場に名前をつけなてなかったが、自分の目標「極めた一本を作る」、そう考えてこの名前を掲げた。


「今日から頑張るか!」

 

 父親の伝手でいい立地に店を構えられた。これなら客も付きやすいだろう。


「初めは駆け出しの魔法使い達が来てくれると言いけど。」

 

 父のおかげで多少は客がつくだろうが、ベテランの魔法使いはだいたい馴染みの職人がいる。

 最初に来るのはまだ駆け出しの金の無い魔法使いばかりのはずだ。

 

 とりあえず店を開けて鍛冶場へ向かう。

 早速作業を始めようとすると、魔法の呼び鈴の音がする。客が来た知らせだ。


 店先に向かうと女性が置いてある武器を眺める女性がいた。

 見た目から考えるに貴族のような綺麗な格好をしているところから冒険者ではなさそうだ。

 しかし、軍人にしては若いようにも見える。


「いらっしゃい。」

 

 声をかけると、彼女は店内を見まわしながら、近づいてきた。


「あの……武器の依頼をしにきた……。」

「ん?ああ、依頼かい。大丈夫だよ。」


 1人目の客からオーダーメイドとは珍しい。


「早速ですがどんな武器をご所望で?」

「ああ、これを見て欲しくて……」


 そう言って魔法で出してきたのは彼女の背丈はあろうか大きな刀だった。


「なるほど、この様な刀をご所望なんですね。」

「いや、それの倍の刃渡を考えています。」

「なるほど、倍……確かに倍の方が……倍?倍ですか?」

「ああ、小さいだろうか?二刀欲しいのですが?」

 

やっぱり、この世界は武器がデカい!!!

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