アクアマリンの涙
翡翠
1
天職だと常々思う。人間関係を築くのが下手な私にとっては、単独で黙々と出来るこの記者という仕事が天職だ。
あの日、青空に浮かぶ陽に照らされた雲を見上げながら、私は次の取材の為のメモを取っていた。
そんな時、携帯が鳴り響いた。
「亮が殺されたかも」との一言に、私の心臓は締め付けられるように痛む。
現実が一気に押し寄せてきた。
私は思わずメモを握りしめる。目の前に広がる風景がみるみる色を失っていくのを感じた。
亮のことはよく知っていた。
明るく、社交的で、周囲の人々を惹きつける魅力を持っていて、羨ましかった。
しかし、そんな彼にも闇の部分があったことを、私は知らなかった。
心に潜む孤独と競争心が、彼の笑顔の裏に渦巻いていたと。
現場に向かう車の中、私は頭の中で様々な想像を巡らせる。
彼の家族や友人たちが今、どれほどの悲しみに包まれているのか、私には想像すらできない。
しかし、記者としての使命感が私を駆り立てた。
亮の自宅に到着すると、周囲は騒然としていた。警察官が目まぐるしく動き回り、周囲の人々は困惑した表情を浮かべている。
彼の家のドアは開いており、中から薄暗い廊下が見えた。
私は一歩踏み込むと、まるで時間が止まったような感覚に襲われる。
静けさが恐ろしいほど胸に来る。まるで息をすることすら躊躇うくらいだ。
その時、目の前にいる女性の姿が目に入った。
亮の母親だった。
手にはハンカチが握られており、その奥から流れ落ちる涙が彼女の頬を伝い、床にぽたぽたと落ちていく。
私は言葉を失い、ただその場に立ち尽くした。
「徹さん、亮は…どうしてこんなことに…」
震えていた。
彼女の目には哀しみとともに、何かを求める視線を感じた。
私はその問いかけに何を言えばいいのか、頭の中が真っ白になった。
ただ一つ、彼女の悲しみを少しでも理解したいという思いだけがある。
私は、無念を晴らす為 亮の友人たちにも話を聞くことにした。
彼らの話を聞くうちに、亮が抱えていた事情が少しずつ浮かび上がってくる。
表向きは明るく振舞っていたが、仕事面で他者との競争に疲れ果て、孤独を感じていたらしい。
彼が成功することに必死になっている一方で、周囲の人々に対して無理に笑顔を見せることで、自らを追い詰めていたのだろうと。
人々の口から漏れる言葉の一つ一つが、私にグサグサ刺さり、錘がのしかかっていく。
亮の死のには、必ず真実があるはずだ。その真実に迫ることで、彼の孤独を少しでも理解できるのではないかと考えた。
事件の背後に隠されたものが何であれ、私にはそれを解き明かす責任があった。
高橋亮の人生がなぜ、こうも儚く終わってしまったのか。
抱えきれない感情を抱えながら、大きく息を吐き、目を抑えた。
アクアマリンの涙 翡翠 @hisui_may5
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