第12話 ギクシャク。

頭が良い。


意味としては勉学などができたり、

独自の新しい発想を見いだせることを指す。


「頭が良いほうが、将来楽できるよ」


母の言葉を信じて、私は勉強してきた。

中学校までの教科書は、すべて網羅している。

別に

「天才」

「頭いい」

などの名声などがほしいわけでもなく。


狂ったように勉強しておいて何だが、

私が欲しいのは頭脳ではない。




一人の、友達であった。








「三四人くらいで、今から遠足の班作ってー」


室長の田中赤都(たなかせきと)の声が聞こえる。


私は多分明日くらいにその名前を忘れているだろう。


遠足の行き先は、滋賀だそうだ。なんとも喜んでいいか微妙なラインだ。


…琵琶湖、見れるかな。


『まずげげたんでしょー?』


隣を見る。


「もう、その名前なの?私」


「ったりめーよ」


少し悲しいため息が聞こえるも、


「ありがとう」


『感謝されるよーな事したかな?』


とりあえず、受け取っておこう。

なんぼあっても困りませんからね。


「でも…二人じゃ班は作れないよ、どーしよー…」


げげたんは焦ったような顔を見せる。



『なんか都合よくオッケーしてくれそうな人いないかなぁ…』


はっ…!これならいける…!


『…もしかしたらだけど、ワンチャンさ』


「な、なにか方法が?カナ」








『あたかも3人いますよみたいな感じを醸し出せば室長騙されて、それでいけない?』


「解決策が強引すぎる…」










「ちょっと、いい?」


『「?」』


聞き慣れない声、誰?


私たちは声の主を見るため、そちらを振り向く。


『だ…誰だっけ』


メガネのレンズで彼女の目がキラリと輝く。


容姿端麗、頭脳明晰…


頭いい人、と噂だったのは知っていたが。


入試では当日点がほぼ満点だったとか。


…ではなぜそんなに頭が良い方ではない、


ここの高校に来たのだろうか?


「西岡翠(にしおかみどり)、よ。班に入れてくれない?」


『あ…え?あ、どうする?』


「…あの、もう少し良い班あると、思うなー?」


げげたんは、あまり他人が好きではないらしい。


『その、ミドリが欲しい人、他にもいるん…』


私の声を遮り、両肩をガシッと掴む。


「他にいないの」


『え…あ、はい?』


「他にいないのよ…うるああああ!」


「ちょ!ストップ!ミドリぃ!」


げげたんが強くミドリを揺するも彼女は『ぐるううあああ』と呻きながらこちらを死んだ目で見たまんま。


『わかったわかった!…い、いいよ。なろ』


「ほんとにぃ!?やたああああ!」


狂喜乱舞で何よりだ。

すごい捨て犬を拾ったのかもしれない。



「ねぇ、カナ、大丈夫?この人」


げげたむは私に耳打ちする。…多分ヤバい。


結局、3人で行くことになった。







『「「いただきまーす」」』


もう慣れてきたカホ、ハツカセットで屋上で昼ご飯を食べる。


ユズキの弁当を堪能していると少し遠くからドアの開閉音が鳴った。

げげたんも昼食を屋上で食べるようだ。


「うあ、いたわ、ホントに」


「うあ」とは少し心外だが、立ち入り禁止の屋上に入り浸る私たちを見て至極当然ではある。


「いて、悪いんですか、寒空さん」


「名前で呼んでよ、カホ」


私の後をつけてきたげげたむに冷たい態度を取るカホ。


「…いっつも、どこで食べてんだろ、って、教室で話題になってたよ」


げげたんはパカ、と弁当箱を開けながら流暢に話す。


「カナさん、友達作るのはいいんですけど、しっかり選んだほうがいいですよ…」


「ぐっ…」


カホからのキツめの意見がげげたんにグサッと刺さる素振りを見せる。それに続くようにハツカも口を開く。







「まあ、カナに二度叩かせるって、どういう性格してるんだろうね」


「…ごめんなさい」


『やめてよ、二人とも…』



沈黙が走る。


「…で、でも…カナさん、最悪、死んじゃってたかも」


カホが言いたいのは、嫌味でもない。


こういうとき、どうすればいいんだろう。


複数人でいざこざが起きたことがない(そもそもそんなケースが起きるほど複数人で話すことがなかったため)私。


そうだ話を変えよう。



『ハツカー、そういえばさ』


「んー?どしたん?」


『西岡ミドリ、って知ってる?』



おっ、と何か思い出したようにカホが反応する。


「私と同じ中学校でしたよ」


『ホントに?どんな人?』


「なんか…話しかけちゃいけないオーラみたいなの、ありましたね」



まぁ、噂を聞く限りハイスペック女子といった感じだし、近寄りがたいのはわからなくもないが。




『「「「ごちそーさまー」」」』



私とげげたむは弁当を片付けていると、カホが「寒空さん」と声をかける。


「な、何?」











『許したわけじゃ、ないですからね』


「はいはい、すみません…」


ハツカも同じく、


「カナ、またやなことされたら、関わらなくていいんだよ?」


と言って、二人は屋上を出た。







「はぁ」


『…』


「やっぱ、私…」


『うん』


私をじっと見つめる。


「…カナは、私のこと、まだ嫌い?」


『まぁ、なんとも…』


そっかー、なんともかー…


と、少し悲そうな声で返事する。


「もう…私…、ダメだよ」


彼女は涙を流し、その場でしゃがみこんでしまう。


『ねぇ』


「…」


『うつむいたままでも、聞くだけでいいから』








『じゃあ、私のこと、好き?』


少ししたあと、うん、と頷く。


『なんで?なんで私のこと?…げげたんのこと、叩いたのに』


「…」






『あ、聞くだけって言ったわ、私』



我ながらアホだ。




『みんな私のことを大事に思ってくれてるからさ、私はすごく嬉しい』


『でもね、それで、げげたむが傷つくのはやだ。…?私は何が言いたいんだろ、結局…』








『あー!わかんない!』



こういうもどかしさはご飯食べて寝ても消えないから良くない。少し、彼女を見つめ考える。

しかしながらベストな言葉は浮かばず。


彼女はしゃがんだまま、手を顔で覆う。


『…』


「…」




うまく言葉に出来ないけど。



『私は、げげたんがいい人って、知ってるから』


私は、知ってる。



泣くのは、優しいからだ。


『自分が悪い』と、溜め込むからだ。



『私は、げげたんが大好きだから』


「…!」


私は不意打ちのように急にしゃがんで彼女の顔を見る。


『ちょっと赤くない?』


まだ手を覆っているが、隠しきれない肌は赤く染まる。



「んんんんん〜!」


『あはは、可愛い所あるじゃん』






そんなこんなで、昼休憩は幕を閉じる。













「ちょっといい?」


『え?今?』


放課後、トイレの個室でノックされる。


「もしかして…失礼したわね」


『もしかしなくても個室にいるならわかるでしょ…』


アイドルはしないとか言うが…。私はまぁ一般人なんでね。


用を足し、個室を出る。


外を出ると「また会ったわね」とにんまりしながらこちらを見る。




『何の用ですか?…ミドリ…だっけ』


手を洗い、ハンカチで拭きながら。


「あなたのことは知っているわ」


ビシッと腕を伸ばし私の方へ指を指す。





「イマジナリーフレンドがいるのと、気絶したらしいわね」




『んー…あながち間違っては…いるのかな…?』



話し相手と友達がいなさすぎてとうとうイマジナリーフレンド説が。ひでぇ。



『あの、えーっと、そ、それで?どうしたの?』


「私ってさ」


『は、はい…』






「ここだと話しづらいわ。なにかいい場所はない?」



なんだろう…?告白でもされるのかな。

…なわけないっすね。



『ミドリって、校則を気にする?』



「意図がつかめない質問ね」






「じゃあ…「クソ食らえ」、と言うなら?」


『レッツゴー屋上』


「ふぅん…行きましょう」




そして、私たちは屋上へと歩き出した。





私に何を話すんだろう。

そもそも屋上、拒否しないんだ。


優等生って、あんまり校則とかは気にしないのかな。



そんなこと考えてたらいよいよ屋上へ。


風が涼しく、彼女の髪がなびく。




「あなたは、人とは何だと思う?」


『…謎、かな』


特に考えたわけでもないが。

この一文字が、ただ私にしっくりと来た。


「私はね」


『う、うん』


「なんだろう…?じゃがりこ?」


『は?』


突然のスナック菓子に驚きを隠せない。


今でも彼女は頭が良いから、なにか暗号が?


…じゃがりこに?じゃがりこに暗号仕込むの?


アナグラムとか?


じ ゃ が り こ


だから


こ じ ゃ が り


絶対違う!



「ごめんなさい、ボケがよくわかんなくて」


『あ、ボケようとしてたの?』


だとしても、いきなり一か八かのネタ使うのすごいな。


「私…中学校の頃、友達が一人もいなかったのよ」


『へぇ。…頭いいし、いそうなのに』


ありがとう、と礼を言われる。

彼女は柵によりかかり、どこか遠くを見ながら。


私は、ミドリの横で柵を背もたれにしながら座った。



「友達って、何?」


『私に、聞くもんじゃあ、ないと思うけどな』


「そう?友達、いそうじゃない」


『まあ、いるには、いるかな』



風で髪をなびかせ、こちらを振り返る。


「そこら辺の女子のカス溜まりみたいなのより、ずっといいじゃない。あなた達のほうが。昨日の、あなたが倒れたときの、あの人達。友達よね?」


『うん…ふふ、そーだね。そんな事言うんだね』



「そうね。ま、彼女たちの前では声に出せないけど」






『…友達ってのはね』


「なぁに?」






『わかんない』


「そう」





『だからさ』


「?」


無理やり彼女の手を掴む。





私ってさ、

 



『私と友達になろ!そしたら、なにか分かるかも』


「!」




こんな事する、性格だったっけ?…まぁ、いいや。










寝る前に、


カイがスマホゲームをしている私に話しかける。


「最近、カナが陽キャじみててあんまり楽しくない」


『そんな事言われても…』


「もっと、ぶっ飛んだことやってよ」


『私に何を求めてるの?私のことバラエティーに出演する芸人だと思ってる?』


いや、とカイは首を横に振る。



「生徒会長に推薦責任者なしで立候補したりさ」


『無理だって、システム上』


「天然記念物捕まえたり」


『ダメです』


「物理室で核爆弾作ったりさ」


『国が動くわ』


「じゃあデーモンコア!」


『何!?私にマッドサイエンティストの道を歩ませようとしてる!?』





「道端で死んでるおばあちゃんを道案内したりさ」


『案内より前にやることあるでしょ…道端で死んでるのに目的地に運ぶんじゃ手遅れだよ』



カイはガハハ、と魔王のような笑い声を上げる。














「最近、死ぬ前のことを思い出してきたんだ」




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