第7話 想えど言えず

『うぁぁぁぁぁ、月曜日だぁぁぁ』


定期的に来るこの絶望。また5日間あの地獄のスペースで生き延びなければならない。


「お腹すいたぁ、イクラない?」


『んなもんあるか』


ユズキはお腹が空いたみたいで、テーブルに座って朝食を食べている私に寄り付く。多分だがイクラが冷蔵庫に常備されている家庭は少ないと思う。


『帰ってきたら買ってくるね、』


「ほんとぉ!?嬉しいよぉ、僕」


『“覚えてたら”』


「絶対買ってこないやつだぁ!」


ふははよくわかっているじゃないか。


こいつ一人称「僕」なんだなーとか思いながら玄関のドアをいざオープン。


『…やっぱ月曜・学校やだぁぁぁぁぁぁ』


「耐えよ?それくらい」


カイの冷静なツッコミとともに、またあの忌々しい学校生活一週間コースが始まった。


『昨日…私のこと…そう思ってたんだね』


「忘れて、絶対に忘れて。なんかこう…パッと出たのがカナだっただけだから」














「あの先生マジクソだよねぇー」


クソなんかじゃない。いい先生だ。

わからないところはしっかり教えてくれるし、面白いし、いい人だ。クソなのはお前らだ。


「ねー初夏もそう思うよねー?」


なんで私に聞く?私に意見を求めて何になる?どーせ仲間集めて授業についていけない自分を間接的に助けようとでもしてるんだろ?救いようがない。






『そ、そうだね、私も少し分かりづらいかも』


「そうだよね!やっぱ、初夏が言うと安心感違うー!」


「ちょっと、ウチじゃ信憑性ないってこと!?」


ふたりは急に笑い出す。何が面白いの?


『ちょっと、お手洗い行ってくる』


「ご飯食べないのー?私たちが食べちゃうよー?www」


『や、やめてー…』






「ヒヒフフハハハ!待ってるねー」
















どうせ、私も陰口言われてんのかな。私が聞けないところで。

…まあそうじゃないと、陰口の意味がないな。






…ん?


前から人が走ってきて…!危n


『あいだっ!』「キャッ」


互いにぶつかりよろける。誰だ?…とその前に、とりあえず謝らなくては。


「だ、だだだいじょーぶですか?」


『え…?まぁ、はい』






「良かったです!急いでるので!では!」



そして「廊下は走るな」というルールを全く知らずに生きてきたのか疑うほど爆速で走り去る。大きく赤いリボンがとても特徴的であった。


『…あの急ぎ方…彼氏か?』


思わず周りを見て、彼女にバレないようこっそりついていく。昔、名探偵に憧れていた。張り込み調査とか、そういうものがやりたいなと思いインターネットで見てみると探偵の大半が浮気調査なので失望した小3のある夏の昼過ぎを思い出す。








もしかしたら、あいつらといるより、よっぽど楽しいかも。








『カホ、遅かったね。どしたの?』


「よくわからん人とぶつかったんですよ、しっかり謝ったので安心してください」



いや、それが当たり前なんだが…


「ねぇ…早く来たんだし食べよ?ね?私キウイもらっていいよね?」


待ち切れない犬が一匹。




『「「いただきまーす!」」』



「キィ」


え?ドアの開く音?


「あっ」『あっ』


「どーしました?…あっ」


「キウイうめえ」


私たち(犬除く)はドアの前の女の子と目が合う。ツインテールが特徴の…陽キャ女子だ。絶対。無理だ。近寄れない。溶けてしまううううううううう!


「あ、さっき当たった人」


『あ、そうなの?』


「え?まぁ…そう、当たった人だけど」


「キウイ美味しかった!ゴチ!」


色々情報が渋滞を起こしている。黙らせるためにも明日はキウイの代わりにハバネロでも持っていこう。




「目白初夏です、カホ?を追ってきました」


「よろしくです!」



「よろしくーって、多分見えてないな私。幽霊だしガハハ」


一旦犬の幽霊の口を塞ぎ黙らせ、気になってることを聞く。



『…あの…少し聞くけど…陽キャ?』


「え?…え?」


多分私の質問の意図がわからなすぎて頭が混乱してる。


「そんな困る質問しないでください。みたまんまですよカナさん」


『だめだアレルギー発症するうるぁぁぁぉぉぉぉぉ!』


「落ち着いてぇ!」



ダメだ話せない。あの何時間悩んだかわからないファッションにセットに時間が掛かるであろうツインテールスタイル。異性にさり気なくアプローチできる要素のすべてが残ってるうああああああああああ!


「あう」


「あ、カナ死んだw」


「ちょ!カイさん!笑って助けてくださいって!」














「…お?起きたんじゃない?」


「え?まじ?ナイス膝枕…私下半身ないからカナにやりたくてもできないんだよねぇ」



自分の下半身を見ながらカイは言う。


『…え?』


この視点…まさか…!


「ででーん!起きたら陽キャJKの膝枕ドッキリ!です」


「嬉しいでしょ!嬉しいと言うんだ」


ハツカは自慢げに喉を鳴らす。


『あっあああっあたなあなもはあ』


後頭部に感じるふにっとした太ももの感触、しっかりと見える胸の膨らみ、まさに『下から見てもいい女』状態だ。


神様…わたし、もうお迎えかな?


「いやちょちょちょ!死んじゃダメ死んじゃダメ!」


『ハッ』


ハツカに強く揺さぶられて意識が戻る。













『…つまり、陽キャグループに馴染めはするけどその空気が苦手だ、と』


少し離れてカホはスマホゲームをしていて、カイは3歳児のように目を輝かせて見ている。


「そうなんだよねー…。結局、そんなこと言えないじゃん、本人たちの前で」


強い人って、力が強いとか、体力があるとか、頭が良いとか、いろんな意味合いがあるけど、

真に「強い人」は言いたいことをはっきりと言える人なんじゃないかと最近思う。



自分の本音が、相手を傷つけるのか、つけないのか…。



「もう…わたし、耐えられなくて」


自分が苦手な存在と共生していくなど私は必ずさじを投げるだろう。


「好きでもない人の面白くもない話を聞いて、それで毎回色々な私が『好き』な人…モノ…すべてが否定される。でも、もしあの子たちと離れたら…私は絶対あの子達にいじめられる。中学性の頃、現にいじめられて一人、どこかへ消えてった」


『…』


「わたしも…なりたくないよぉ…」



ポタポタと水が落ちる音が耳に入る。

雨かな、と思わず空を見るが、雲一つない晴天だった。


雨なんて降るわけがない。わかってた。


泣いている彼女を私は見たくなかった。





『ハツカは、何が好き?』


「…好きなもの?」


『うん、人でもなんでも』







「…わかんない」










『じゃあ、私のこと、好きになって』




「えっ」



自分でも何言ってんだろ、と心の中で失笑。


『私は今田カナ、1年1組。ハツカは?』


「…目白ハツカ、1年3組」







『いぇーい!』


「い、いぇーい?」






今日だけは、立派なJKになれたかも?












時は経ち、夜。私の部屋で。


『ぐふふ…陽キャJKと…ライン交換しちゃった』


「気持ち悪い」


『ガチトーンやめて?』


最近カイが鋭い。


『私のどこが好き?』


「もうやめよ?そのネタ」


『私も、カイが好き』


「なに?愛にでも飢えてるのあなた」


『いや、ずっと悩んでた。「好き」が何なのか。それが、わかったから』


「そう」


『だから…カイも好き』


「わかったって」


『大好き』


「あーもうるさいって!」


『なんか顔赤くない?』




「テメェ…!」


そして、クッションやぬいぐるみの投げ合い合戦になったのはまた別のお話。

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