第6話 陰キャの女子が一番えっちだよね(諸説あり)


『…ということで、母曰く、別に大丈夫らしいです』


「まじぃ?」



正直彼女も諦めていたのか、驚いた目でこちらを見る。一呼吸したあと、


「よろしくねぇ」


きゅるるんと目を輝かせ、私に抱きつく。


可愛い。可愛いんだけどね?



「ええっと…そういえば名前は?」


「あー、ないんだよねぇ」


『まぁ被検体ならそうか…』


「良かったら、名前つけてくれない?」




最近命名する機会が多い。

こんな陰キャを好きになる人なんているわけないので私に子供が産まれることがあるわけ無いと思っていた。なので絶対名前なんて誰にもつけないと思ってたのだが…。



『今日から…』



私に子供ができたら?なんて名付ける?


そもそもそんな相手できる?あーもーそういう考えやめよう。一生独身だねこりゃ。



『ユズキ…でどう?』


「ユズキ…」


「その心は?」


『いや…特に。てか謎掛けとかでもないから』





今日はもう寝よう。なんか、色々疲れた。








「へー、この子があの黒猫なんですね」





『…いやさ』



「ほー、名前はユズキって言うんですね。カナさんのネーミングセンス、地味にいいんですよねぇ」


「浜田雅功とかじゃなくて良かったぁ、ボク」


『あのさ』


「ほら、気持ちいいですか?ユズキさん…おーよしよしよし…」









『今、朝の何時か知ってる?』


「え?8時半ですよね?何の問題が?」








『なんでこんな時間にいるんだよ私の家に!』


怖いよ私。


起きたらもういるもん。来てと言わずとも。


「まぁ…許してあげなよぉ」


「ユズキ、お前はカホという人間を知らない」


恐怖の事実を知っている私たち。


『そうだよユズキ、犯罪者予備軍に頭なでられてちゃダメだよ』


「え!?ひどい言われようですね!?」


あながち間違いではないし、むしろ私達の大正解であるとも言えるほどである。












「さぁ始まってまいりました、ケモミミ女の子へ質問してみよう!のコーナーー!」


『はぁ…』


「いぇーい!ですね」



唐突に始まる謎コーナー。未だにカイの思考回路が読み取れない。



「質問1 好きな食べ物は?」


「ええっとぉ…イクラが好きだよぉ」



猫は魚好きで有名なのはわかるのだが、その卵を好む猫はこいつだけかもしれない。


…あ…猫じゃない、からか…?




「質問2 どんな男がタイプ?(全員回答)」


ちょい待て今()の部分なんつった?


「んー…優しくてぇ、愛嬌がある人がいいなぁ」


「じゃ、カホは?」





「えっ」


やはりか。カイの無茶振りを正面から食らって可哀想だが多少の犠牲は否めない。その隙を突いて、こっそり逃げ…


「あっれー?カナ?逃げるつもり?」


ニヤリと悪魔の嘲笑をしながら目線をこちらに向ける。このクソ幽霊が。


「逃げた罰として、先に言ってもらおーかなー?」


やばいやばい。急にカイの独裁政治始まった。

このエセエンタメコーナーみたいなやつにそんな強制力あるのかよ。


「わかりましたって!言いますって!言えばいいんでしょ!あーもう最悪!」


ヤケクソになり情緒が不安定化するカホ。それを見てゲラゲラと笑うカイ。成仏したら地獄に行ってほしいと切に願う。ホントに。


「その…意外としっかりしてて、頼りがいがある静かな人がす…すっすすすすす」


『あー!カホがショートした!』


赤く染まった顔を手で覆い、壊れた電池で動く人形のような動きをする。


『えーと…』


「いーよ、考えてる間私カナに憑くのやめるから」


つまりは今考えていることはカイの脳内に行かない、ということだ。カイのバーカ。アホ、トンチンカン。…物悲しいな、やめよう。



好きな男性?というか男性に話したことなんてもう全くやってない気がする。お父さんもいないし。カホに初めて会った日に怖そうな男子生徒と少し会話(拳)したくらいか。…返事はなかったけど。




『私は…』




そもそもタイプって自分に合うことなのであって、この質問は男性・女性という性別は関係ないのでは?私の中で1番気の合う人を聞かれているのであって、別に私のどタイプの男性は聞いているわけではないのでは?そもそも好きってなんだ?今更すごい遅い気がするが。…好き?晩御飯のおかず?朝ご飯の食パン?いやなんで食べ物しかないんだよ!!




『ない』


「え」



昔っからそう思ってた。私を真に理解できる人なんて結局一人としていない。…自分のタイプは、自分でなくっちゃ。




「…ナルシスト」




『いや、そういう意味じゃなくてね?』




早速カイに心を読まれる。「つまんなぃ」とケモミミ特有である付属品の耳をパタパタさせながらユズキが言い、あくびをする。




「でも…カナらしくて、私は好きですね」


『私らしい、?』


「優柔不断でアホなとこです」


『え?今罵倒されなかった?』


「そんなことないですよー」と言いながら口笛を吹く確信犯。驚くほど口笛と嘘が下手だ。



『あ、カイは?カイはどんな人がタイプ?』


「えっ…もう良くない?」


「だめですよぉ、全員って言ったじゃないですかぁ」


「そうですよ、自分だけ助かると思ったら大間違いですよ」


この展開を彼女は予想していなかったらしく、ヤバいどーしよー、といったような顔でこちらに助けを求めている。自業自得がこんなにも似合うのは彼女だけだろう。


「私の好きなタイプは…」


「タイプは?なんですか?」


「言ってもいいけど…恥ずかしいし///」


「へー?そーやって言い逃れようとしてるんですね?権力があるとこうなるんですね勉強なります」



「あっ…い、いやそういうわけでは」


取調べ室みたいなムードでカイを問いただすカホ。

完全に攻守交代しているなーと笑いながら思う。




「じゃあ言ってくださいよ」


「……ナ」


「もっとはっきり言ってよぉ」









「カナ」



あーそうそう、やっぱカナ、ね……。







『え?私?え?』


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