第5話 にゃーにゃーにゃにゃにゃにゃにゃーにゃーにゃーにゃー
「はよ起きろ!!」
『カイ…え?もうそんな時間?』
遅刻しそうな時間なのではと焦りベットの上で充電されていたスマホを見る
『まだ…朝の3時じゃねぇか』
「いいじゃん」
『殺すぞ』
「ほら起きろ!!!!うおおおおお!!」
「痛ってて…何を殴らなくてもさぁ」
あいつの手刀も強くなったものだなぁ、
としみじみ実感する。やはり私のおかげかな?
幽霊って、意外とつまんない。
いや、意外じゃないのかもしれないな。眠いとかも感じないし、お腹が空いたとか、お腹がいっぱいも、このような「肉体的感情」がないのがつまらないな、と何年か生きていて感じる。
「…起きるまで待つかぁ」
気分は白雪姫の寝起きを待つ王子様のようだ。
「おはよー、カナ」
私の部屋を開けお母さんが起床の挨拶をする。
『ふぁー……おはよ、お母さん』
「朝ご飯できてるよー」
『ありがと』
「お母さんちょっと出かけてくるから。多分夜までには帰ってくると思う。夜ご飯は買ってくるから、昼はテキトーに食べといて!」
『はーい、いってらっしゃい』
いただきます、と手を合わせ母の愛のこもった朝ご飯にありつく。
『ねぇ』
「なぁに?」
向かいのテーブル席に座って頬杖をついてこっちを見るカイ。
『なんか、今日やりたいことある?』
「えー…月面探査?」
『私たちができる範囲で』
「うーん…月面探査?」
『月面探査舐めんな』
ひひひ、とヒステリックな笑い声を上げて、彼女は返事をした。
「まぁ、カナといっしょにいれるなら、いいかな」
『そう』
案外初めて言われたかもしれないな、その言葉。
『じゃ、寝るね、おやすみ』
「え?」
『え?』
「いやさ、これから準備してどっか行こうぜって言う流れじゃないの?こういうの」
『え?寝るよ?』
理解できねぇ、と言わんばかりの顔をしてこちらを凝視する。カイよ、これが人間だ。
「いや元人間ですが!?…多分」
『でもさー休日だよ?眠いじゃん。なんでそんなに外行きたいのさ?』
「私が暇だから」
『それは知らん』
そのまま寝ようか迷ったが…
『…?スマホからバイブレーション音が…。電話かな?……もしもーし』
《もしもーし!カホです!》
『あ、どしたの?』
《今から家行っていいですか?一緒にお出かけしたいんですよ!》
「ほら、これは行くしかないんじゃない?」
『えぇ…?』
なんというご都合展開ですかね。すっごい嫌だ。
『あ、今どこ?』
《カナの家の前ですよ!》
『あ?』
《あなたの家の前!玄関にいますよ!》
え?
《ほらほら!スマホから耳離してみてください!微かに私の声、聞こえますよねー!?》
たしかに、外から声が聞こえる…!
私、カイ、ふたりして戦慄。
『怖いから今度は自分の家で電話かけてね?』
「流石にですか?」
「怖さの化身の幽霊である私でも背筋凍ったよ」
「それほどでもないですよぉ、褒めないでください、カイさん」
多分カイは褒めてない。そう思ったらその言葉が彼女に届いたのか、うんうんと大きく頷きこっちを見ている。私も怖い。この子将来犯罪行為しそうで。
「にしても…私服ダサいですね」
『ふぐっ』
「あれだよね、マンボウとかが着てそう」
『魚類で例えないで!?いやあとマンボウは服着ないから!』
「ショッピングモールで私が服とか選んであげますよ!ファッションに関しては任せてください!どうしたら可愛い女の子になれるのか毎日悩んでるんで!」
しかし私は寝たかった。
そんな私の意見は彼女には全く反映されず、私は近所の大型ショッピングモールに強制連行された…。
最悪だ。
『いやー楽しかったね、かえろーかえろー』
「まだ入ってすらいませんが?」
「察してやりな、カホ。家からここまでで何分歩いたと思う?」
「え?10分くらいですかね?」
「彼女の足はもう限界なんだよ」
「早っ!?」
今はとにかく寝たい。眠いわけじゃないけど…!
ベッドに体からダイブしたい。
ぐぐーって体伸ばしたい。
寝返りうちたい。
うちたいうちたいうちたい。
「んじゃ、行きますか、カナさん」
『嫌だぁぁぁぁぁ』
『どぉ?合う?』
「合いますね…意外と。カナさんの体付きって腰がすらっとしててその割にヒップが大きめで私の好みです」
『ありがと、マジで気持ち悪い』
いつの間にかじっくり体を見られていたらしい。ますます彼女が怖い。
『お昼ご飯どうする?』
「カナさんが好きなのでいいですよ?」
「わたし寿司食べたい」
『お前は聞いてない』
結局フードコートに行って全員(カイは何やら「店員さんが無視してくる」と怒っているが当たり前だ)違うものを食べた。カイが海鮮丼を頼んだことが未だに納得いかない。1575円+税、返せ。
しかも結局食わねぇし。
『あーもうすぐ家!家だぁ!家!ふぉぉぉ!』
「こんなキャラでした?」
「カホ、ブーメランだねぇ」
『家♪家♪家イエーイ♪…ん?』
「どったの、カナ」
段ボールの中に…黒猫がいる。
『捨てられたのかなぁ』
「にゃー」
「お、鳴いた…!猫なのに!」
『猫だからだよ』
最近こいつらと喋りすぎて脳と口が疲れる。そして私はどれだけ陰キャだったのか思い知らされる。
今まで橋本カナ以外とまともに話さなかったから…
「一応連れて帰ります?今夜雨降るそうですよ」
『連れて帰るって…どこに?』
「そりゃあもう…カナさんの家に決まってるじゃないですか」
『やだよ、お母さんになんて言われるかわからないし』
この捨て猫にはごめんだが、家に猫を養う余裕はない。すまないな。もう少し余裕のある石油王とかに…
「にゃー」
『ぐ…心が痛む!』
カイが手で捨て猫の顎を愛でる。
『グルルルル』
「見て!私のこと見えてる!触ったらグルグル言うよ!やべぇ!かわええ!」
「どーします?私の家…犬いるんですよね…」
『へー、犬種は?』
「アメリカンショートヘアです」
『それ猫だよ』
「いや、アメショーとトイプードルのミックス犬です」
『キメラ作ったの?』
支離滅裂すぎる。
このまま放置するのもあれだし、もうカイは「だいじょーぶ、連れて帰るからねー」と捨て猫に呼びかけてるし、猫はちゃんと可愛いし…。
私は最終手段に出た。
《もしもーし?》
『あ、お母さん?』
《違うよ!スティーブ・ジョブズだy》
『お母さんだね。あのさー、捨て猫いるから飼っていい?』
《…私の世話、ちゃんとできる?》
『え?老後の話?』
《んーいいんじゃない?》
『軽いなー…』
《カナ、あなた昔っからそんな欲しがるような子じゃなかったし、私も色々忙しかったから、今まで我慢させてたのかもしれないわね。…でも今は、収入も安定してきたし少しくらいあなたを甘えさせたいの。それが、親ってやつなのかしらね》
『…』
『ありがと!切るね』
《もう少し親からの愛とか感じてもらっていいですか(ブチッ
『いいってー!』
「急に切って大丈夫でしたか?何かお母さん言いたげでしたけど…では、また明日遊びに行きますね、じゃ、バイバイ!」
『バイバイ!』
意外と充実した、1日だったかもしれないな。
『ただいまー』
「とりま風呂に入れされたほうがいいかもね」
玄関で猫を撫で撫でしながらカイが言う。
「じゃあ一緒にお風呂入ろ」
『え?あ、うん』
「あ!えっちな事考えてたでしょー」
『蹴り殺すぞ』
着替えを持ってきて、服を脱ぐ。
驚いたのは、カイが服を脱いでいたことだ。
『え、脱げるんだ』
「そーだよ。腕が…消えかかってるみたいな感じだね」
「ぐへへ、どぉ?シャンプーきもちいい?」
『あー、いい湯加減だわ』
カイは猫にシャンプーをしている。
何気に私よりやっぱ巨乳でなんかいらつく。
「あーそこそこぉ、もっと強めにシャンプーお願い」
『何言ってんの、カイ…カイ?』
「え?何今の声」
「あー待ってぇ、そろそろ無理かもぉ」
この声の主は誰?まさかとは思うが…いや、それ以外この風呂場にはいない。
「あ…変身解けちゃったぁ」
『「うわぁ…」』
「あれぇ!?なんか歓迎されてない!?」
「いやあの、その…」
お風呂から上がり、問題のこいつを正座させる。
「変身が解けた」と言っていたが、
その姿は俗に言うケモミミの女の子であった。
『どうする?こいつ』
「カナ、中国では猫も料理するらしいよ」
「すみませんってぇ!騙したのはぁ!」
『黙れ』
「ハイ」
キャットフードとか買ってったほうがいいのかなーとか、私の横で寝てくれるのかなーとか、その他諸々のワクワクを返してほしい。
「あの猫モードってずっと維持できないの?」
「そうなんですよぉ、最大でも1日で10時間くらいでぇ」
『二十四時間できるようになったらここに住ませるの、考えてあげるよ』
「んな無茶なぁ!お願いですよぉ!どの家も『こんな化け物お断り』って言われるんですよぉ!」
「どーする?カナ」
正直なところ猫はいいとして、化け物は母は許すのだろうか。
『え、なんでそう…ケモミミになったの?』
「話すと長くなりますよ?」
『いいよ、何か知りたいし』
ある科学施設で、飼い猫の寿命を長めようという実験があったらしく、黒猫を被検体に色々やってたみたいで、人間の細胞のクローンから私が生まれた、ということらしい。
長くはなかったけど…情報量が多い。過酷な過去があったみたいなのはわかったが…。
「その…なんでも使っていいんで!召使いでも性奴隷でも全然大丈夫なんd」
『わかったわかった!最近そういう系のネタ多いからやめよ!…まぁお母さんに相談かな』
第792回︰家族会議
『ケモミミ女の子って…どう思います?』
「え?いいんじゃない?私も憧れた時期があったなぁ」
『それが実在して今家にいるなら?』
「え?…あいつ?さっき言ってた…猫?」
『はい…騙されました』
「え、正直全然良いんだけど」
改めて、私の母も、どこかおかしいかもしれない。
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