第4話 友達とカタチだけの愛

「屋上にて待つ」






『…いた』


できたらいないでほしかった。いた。普通に。



「だって『屋上、鍵開いてて入れるよー』ってあたかも遠回しに屋上であなたと私でランデブーって言ったのはカナですよね?私は悪くないと思いまーす、さぁ昼ご飯食べましょ食べましょ」



え?え???



『いやさ、LINEって果し状じゃないからね?あと変な言い回ししないで』



「私とあなたはもう他人じゃないんですからね?もうベッドインとかできま」



『あーもーいい!わかったから!』



キャラ違う!!!なんかこう…敬語が…

いや敬語はあるか…。


こう…サバサバ?サバサバってどういう意味だ?結局…なんかこう、しっかり者でさ…


私の中のカホの像が音を立てて崩れていく。




『「いただきます」』




「カナー、イチゴ、もらっていいよね?」




じゅるり、とよだれをすすりながらイチゴを指差すカイ。絶対にあげたくない。



『それで今一番クラスからはぶられてるからやめて』


「やっぱそっかー」






「え」





『え?どしたのカホ』


「いや…この人だれですか」



カホの目線の先にはカイが。たまたまだと思ったのかカイは反復横跳びのような感じで右往左往していたがそれもしっかりカホは目と指で追っている。




『えっと…見えるってこと?』


「ですね」


「私を知ってるのは、カナだけだと思ってたのに…。禁断の関係、終わっちゃったね」


『ないわそんなん。変な言い方しないで』










「で、今カナに土野カイ、と呼んでいる幽霊が憑いていると」


『そゆこと』



隠してもあれだし、何なら見えてるし…。

彼女にすべてを話した。リボンのことだって、話してくれたし。


「私、昔からみんなが見えてないもの見えたりするんで、そういうことなんですかねー」



『そうかもね。というか…あんまり聞くの失礼かもだけど…』


「どうしました?」







『クラスに一緒に食べる友達とか、いないの?』


「…」


『…』







「あなたが、いるじゃないですか」


『あ、いないんですね』



「そうとも言いますね」と言いながらおにぎりにかぶりつく。いや、そうとしか言わない。特に恥ずかしげもなく言っているので、彼女のこういうところはぜひとも見習いたい。



『「ごちそうさま」』



カホは「今日は一緒に帰りましょうね」と言い残し、弁当箱を持って去っていった。



私は、カイに聞きたいことが山ほどある。

死ぬ前のこととか、いろいろ…

ただ、それを彼女は知っている。心が読めるから。


カイだけ読めて私読めないって不平等じゃねぇか!





「ふふふ…聞く?」


『全部わかってるくせに、いじわる』


彼女の笑い方は魔女そのものだ。

この言葉は彼を卑下しているわけではなく、それ以外に彼女の無駄に実った美貌を例えることができない。…この発言も聞こえているのだろうか。



『なんで憑いてきたの?他にも、私の前に来た人が何人もいたはず』



噂が絶えず昔から今も続いてるなら、私みたいな人が一人二人来るはずだ。それなのに、なぜずっとここにいて、私だけに憑いたのか?



「カナといれば、思い出せそうだったから。私がどう死んだのか、なぜ死んだのか」


『そう…か。私といれば?』


うん、とうなずくカイ。

何か、彼女から温かいものを感じた。


『じゃ、行こっか』



ドアを開けて、教室に戻ろう。あの、憂鬱な教室に…




「あ」


『あ』



見慣れた八分音符の髪飾り、いつも楽しそうで誰からも愛される顔立ち。



『…は…橋本カナ』


「なんでフルネーム?」



いつも話してたが、昔っから彼女の行動が納得できなかった。なぜ私にも話しかけるのか。絶対に他の女子と話したほうが楽しいのに。




「え…?なんで屋上に?」



『いや、その…すごい景色が綺麗で』








「先生に言った方がいいよね?」


『え』


「だってさ、この立入禁止じゃん」


『あいや、そうだけど』


「わかってるのになんで入ったの?」


『…』




「…ははは、じょーだんだよ、じょーだん!ちょっとからかっただけだって」



そう言って、私の小指と自分の小指を絡めて…


「ないしょー、ね?」


『う、うん』


じゃーねー、と手を振りどこかへ行く。


…彼女が嫌われる理由がわからない。



『行こっか…』





「ねぇ」


『何?』


「すぐ戻るから、ちょっと離れるね」


『え?いいけど…どうしたの?』






「ちょっとね」



カイが行ってしまった。




…そういえば、一人になるのは何気に久しぶりかもしれない。といっても、3日もたってないが。















「あいつ…絶対になにか隠してる」


幽霊になってからか、だいたい人の心理がわかる。憑いているカナ並に読み取れるわけではないが…。


指切りした時、微かに感じた。



「いた」


スマホ…かな?なにやら触っている。


誰もいない教室に来て、何をしている?



「どれどれ…LINEか?それともえっちな漫画か…?LINEか。つまらんな、…誰と話してんだろ」



やっていることはえげつないと自覚しているが、幽霊なので法律は効かない。好き勝手やらしてもらおう。





<今どこにいるの?



ちょっと、ね。すぐ戻るよー!>



<何してたの?


中学校の頃の友達と話してた!>






「なんだ、普通だな」



がっかり……







……当たり。




<どんな人なのー?


陰キャで私がいなきゃ喋れないって感じ。私ってさー人気者だから、陰キャのみかたみたいになってるのまじで嫌なんだよねー…でも、男子に人気出るし、いいけど>




 あのブス、その上立入禁止の屋上_



「とりゃあ!」


「痛っ!」


ペチン、とスマホがある右手を力強く叩く。

利き腕がなくなってなくて良かった。



「だ…誰?ど…どこ?」


「わたしが、見えるかなぁ?」







「ねぇ?誰ぇ?今ぁ?どこぉ?」


恐怖のあまり、泣き崩れそうになる顔。痛めつけるのは私の趣味ではないが、ざまぁみろといったところだ。




「幽霊って、性根が腐ってるほど見えないらしいよ?」



「誰が閉めたのぉ!?ねぇ!?誰かぁ!開けてぇ!開けてってばぁ!」




あっかんべー。じゃーね。ふふふ。
















『あれ、カイ。どこ行ってたの』


彼女は教室の自分の机で座りながら待っていた。


「わざわざ放課後も待ってくれたの?」


『ま、まぁ。喋り相手いないし…。なんで遅くなったの?道に迷ったとか?』


「生き地獄に叩きのめしてたとこ」


『どーいう意味…?』



「知らないほうが幸せかもね」



そんな他愛のない会話のキャッチボールの最中に、あ!いた!と廊下から声が聞こえる。


「探しましたよ!今日一緒に帰ろって言ったじゃないですか!」


『あーごめんごめん、一緒に帰ろ?』


「あなたの家、行っていいですよね?」






『え?…まぁいいけど』


「泊まっていいですよね?」


『え?…親に聞かないと…』


「二人でベッドでいっしょにセ」


『ストップ!ナニする気!?』


わー!と追いかけっこをし、階段を降りてく二人。


「私も、地獄行きか…」








彼女が犯した行為はともかく、私もオーバーキルすぎだ。


『カイー!はやく帰ろーよー!』


遠くから、"友達"の声が聞こえる。





「はーい、待ってて」



まだどうなるかわからないけど、私は彼女といたい。そう思えたの、生きてて初めてかも。


…死んでるし、生きてた時の記憶がないけど…。






私も、やり直せるかな?青春。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る