第2話人間性を捨てよ
結局僕は休日を利用して家で響さんから借りた漫画を読むことにした。
幼い頃ヒロインが化け物と出会い。
優しくしたことで化け物がヒロインに惚れ、イケメンになってヒロインと再会する女性向け漫画だ。
化け物は散々ヒロインを困らせるも少しずつ常識を学び、社会になじんでいく。
ついでに社会にすでに馴染んでいるイケメンの化け物がヒロインのもとにやってきて主人公を元の化け物君に戻すためにヒロインを攫ったり主人公の化け物くんが圧倒的な力でヒロインを取り返し、いい感じになったかと思えば化け物くんが何故かヒロインの学校に転入してくるというトラブルが発生したりとドタバタラブコメディを形成していた。
うーん泣ける。
特に化け物君が自分のせいでヒロインが攫われたとき自分は彼女の傍にいてはいけないのではないかと悩み、ヒロインにその悩み事受け入れられる姿など感涙でティッシュが足りねえ。
「ええもん見たわ。こら響さんもお勧めするで!」
ちなみに僕は普段漫画もドラマも見ないのでこの手の物語の感動系に弱い。
テンプレとか知らないからより楽しめる。
いや、もしかしたそういうのがいけないのかもしれない。
僕はもう少し物語に触れるべきなのではないだろうか。
思い立ったが吉日。僕は財布をもって書店に走った。
「響さん。今日は出席番号的に君があてられる番だよ。ふふ、大丈夫かい? 僕が教えようか?」
「……なにその気持ち悪い口調。いったい何に影響された。『化け物ですがなにか』にはそんな口調のキャラはいなかったと思うんだけど」
ふふ、なんだか評判が悪いようだ。
しかし、これは僕がまだ漫画のキャラになり切れてない証だ。
精進しないとね。
「『化け物ですがなにか』には深く感銘を受けてね。僕はこういう物語にあまり触れてこなかったからもっと読み込む必要があると思って沢山買ったんだ」
「少女漫画を?」
「少女漫画を」
「大の男が少女漫画買い込む姿はちょっとしたホラーね」
もしかして少年漫画も読むべきだっただろうか。
しかし僕は学生なので流石にそこまでの資金はない。
「確かに漫画を読んでもう少し常識を学べとは言ったけど漫画を真に受けないほうがいいわよ。漫画の人たち常識ないから」
「じゃあ僕は一体なにを学んだというの!?」
「非常識かしら」
じゃあ僕の行動には一体何の意味が!?
あの壁ドンにもいきなり家に行ってヒロインにアピール人もいきなりヒロインの顎をくいってする人もみんな非常識!?
いや、まあこいつなんでこんなことして警察呼ばれないんだろうとは思っていたけどやっぱ普通に非常識だったんだね。
世界が僕を置いて別の常識を作り出したのかと思った。
「ごめんね、あんたがそんなに影響受けやすいとは思ってもみなかったわ」
「ちなみに僕は小学生の頃父の書斎のドラゴソボールを読んで一年ほど自分が虚空だと疑わなかったくらい影響を受けたことがある」
「今この時目が覚めてくれてよかったわ」
「父と母は僕のことを化け物でも見るような目をしてたけどね」
「すでに被害が……」
父と母が僕に生暖かい目をしながら、距離を取っていたが今思い出すと僕のキャラが相当に不気味だったんだね。
いや、うんごめんね。
「……あんたどうやって生きてきたのよ。今まで物語に触れてこなかったことといい。影響受けすぎじゃない?」
「ドラゴソボール事件から以降僕は父と母にあらゆる媒体の物語から引き離されてね。そのせいかも」
「心中お察しするわ」
それは僕にかな? それとも両親にかな?
いやまあ、もう目が覚めたしそれはもういいや。
一年間虚空をやった後、目が覚めた僕に両親泣いてたけどそれはもういいや。
それより
「『化け物ですがなにか』語ろうぜ! ちなみに僕が一番好きなのは化け物君! ヒロインに対する感情の変化とヒロインが徐々に化け物君を好きになっていくのがもう甘酸っぱい!」
「アンタの切り替えの早さは嫌いだったけど私好きになってきたわ……しかしアンタわかってるわね。ちなみにヒロインをさらった奴もヒロインが好きになって三角関係になる展開も私好きだわ」
「あいつはゴミだ! 化け物君の敵だ! 俺が漫画の中にいたらアイツの命を一生狙ってやる!!」
「やだ過激派、気持ちはわかるけどアイツもそんなに悪い奴じゃないのよ」
いやわかっている。
ヒロインをさらった化け物も昔は夜を恐怖に陥れたカリスマ性があったころの化け物君に元に戻ってほしいと願い強行したことも知っているし。
昔の化け物君を知ってもそれでも受け入れるヒロインを見て惚れこんだ姿も知っている。
あと化け物君に関することを除けば正直があって金持ち。
でも許せん。
「そもそも頑張って変わった化け物君を否定するのも気に入らんし、どう見ても相思相愛間近な二人の間に入ろうとするのも理解できん!」
「お金持ち、化け物君に関することを除けば常識あるし、社会的ステータスもある。意外に化け物君が勝ってるところ少ないわよ」
「好きなだけじゃダメなんですか? 想いが強いだけじゃダメなんですか!?」
「それだとアンタフラれてないわよ」
「くぅん」
正論という刃は鋭かった。
「まあでもよくわかったわ。アンタには物語が足りない」
何故今の流れでそうなるのかさっぱりわからん。
俺の好きになったこの子は実はバカなんじゃないだろうか。
「アンタ私のことバカだと思ったでしょ」
「い、いや……そ、そんな……こと、ないですよ……」
「わかりやすすぎるわよ!!」
そんな馬鹿な!
漫画表現のごとく顔に書いてあるとでもいうのか!
「そんだけ目線をそらしてどもってたら馬鹿でも気づくわ!」
そうらしい。
嘘とかあんまりついたことないからね、まいったね。
でもいいことだと僕は思うんだ。
嘘つきと正直者は常に正直者が賞賛されるべきだと思うんだ。
「アンタには物語が足りないとはそういうことよ」
「やっぱり響さんって……」
「しばくわよ」
「ごめんなさい」
そうして放課後、僕は響さんに連れられて文芸部に連れてこられた。
「文芸部で物語を学びなさい。あなたに必要なものが詰まっているわ」
「いや、僕、影響されちゃうからあんまり物語には触れてこないようにしてきたんだけど」
「それよそれ、それがダメなの。世のかっこいいとか感動とか、そういうものに触れてこなかったから人間性が欠けてるんだわ! またとち狂ったら私が元に戻してあげるから遠慮なく触れなさい」
酷くない?
今僕人間性をダメ出しされたんだけど酷くない?
ちなみに
「僕のどこが人間性が欠けてると言うのか」
「フラれてすぐ私に話しかけて何でもないように振舞うところとか、そもそも影響受けすぎて人格変えてくるところとか、告白遍歴をフッた相手に教えるとか諸々よ」
いっぱい出てくるな。
僕本当に大丈夫か?
僕冒頭でフッタ相手と友達になるのが特技とか言ったけど全否定じゃない?
僕が化け物君じゃない?
「わかったよ……じゃあ僕が変になっても響さんが元に戻してくれるんだよね?」
「それは任せなさい。直らなかったらご両親に土下座する覚悟よ」
「覚悟持ちすぎじゃない!?」
いい女とか超越してない?
僕が惚れただけあって慈愛の精神に溢れてるけどそれはもう慈愛というか神にささげる献身とかじゃない?
僕は少し彼女に恐怖を覚えながらもここで言いあっても埒が明かないと思い、文芸部の扉を開いた。
中で小さ目な女の子が口から涎を垂らし、恍惚の表情を浮かべていた。
「失礼しました」
僕は扉を閉めた。
「ねえ、あれはないよ。あれはやばいよ」
「いいから入りなさい。通常運転よ」
「あれが!? クスリキメてそうな顔だったよ!? あの子いつか捕まる顔してたよ!?」
「いいから入りなさい! いつも通りよ! あの人は熊田麻里部長! 最高の物語に出会うとキマルのよ!」
「それは常識から逸脱してる人じゃないかな!? 学び場としては最低じゃないかな!?」
「常識と物語はトレードオフよ」
「じゃあ間違ってるよね!? 人間性に欠けてるのは君だよね!?」
「あの部長と同じ部屋にいるのは苦なのよ!」
「貴様! 僕を人柱にするつもりでここに連れてきたな!!」
どっちが欠けてるんだよ!!
やっぱ響さんって頭おかしいじゃないか!
僕のが常識ってものを知っているね! 間違いないね!!
「部長! 新入り連れてきました!!」
「貴様! 僕は入るとは一言も言って……」
僕は女生徒は思えない凄まじい力で頭を押さえつけられながら文芸部に強制的に入室させられると先ほどやばい顔をしていた熊田麻里部長は可愛いティーカップで紅茶を飲んでいた。
あれ? 見間違いかな?
「……見間違いか。そりゃそうだよね。あんな顔している人が人間社会にいちゃいけないよ」
「見間違いではないのだわ」
「……見間違いじゃなかったのか」
あと変な口調。
この人も物語に影響されるタイプなのだろうか。
見た目は小さいながらも美人、というよりかは可愛い系であり。
男子ならばその見た目だけで付き合いたくなるほどだ。
「そう、物語とは合法のクスリなのだわ。天才たちが鎬を削り生み出された作品たち。もちろんその中には駄作もあるし、自分には合わない作品もある。だけど自分の好みにドンピシャの最高の作品に出合えた時、頭は脳内麻薬で満たされおしっこじょぼじょぼですわ」
「やべーよこの人頭おかしいよ。僕は一体何を聞かされてるんだよ」
「先輩は頭がおかしいけど、漫画小説問わず物語中毒者でオススメされる作品は全部面白いわ」
「天は一物与えたらバランスとるために狂気も与えたんだね」
僕はこの文芸部からどうやったら逃げれるか思案したが響さんの超パワーが僕の肩を掴んでいるので僕は一度諦めて、話を聞くことにした。
人間性が欠けてるのはどっちなのだろう。
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