038 マエラ ダンジョンを攻略する 1
マエラは、獣人の集落を出たその足でダンジョンに来た。
もうすぐ日付が変わるかという時間にも関わらず、ダンジョン前は混雑してい
た。新階層へ行く冒険者達でごった返していたのだ。
そしてそれは、ダンジョンだけではなく町全体にも波及していた。
新階層の発見は冒険者のみならず、カシンの町を熱狂させるのに十分な出来事
だったのだ。その裏で起きた胸糞な出来事は問題にもなっていないし、既に人間の
記憶からはなくなっている。
そのせいで、マエラがダンジョンに入るのが遅くなってしまった。ダンジョンに
は一人ずつしか入れないのである。
マエラ的には、”第三層がどうかしたの?もう随分前、初めてダンジョンに入っ
た日に通り過ぎましたが?”と、鼻で笑う程度の階層に一喜一憂している冒険者達
を見ているのは、とても不思議な感じであった。
ちょっと前のマエラでは、一階層ですら突破できないただの小娘だったのだか
ら…?小娘…小娘ではない…妙齢の女性、妙齢…大人の雰囲気が漂う…洗練?さ
れてる?
マエラさんの悪口は止めてもらいたい!
それはさておき、ようやく転移した先は、おそらく最奥。ダンジョンコアを守る
守護者がいる部屋の前。
なぜわかるのか?それはもちろん、”マエラのスキルが囁いている”からである。
そして門の前に立ったマエラは、両手で門を押し開いた。
~~~~~
「もう~なんでぇ~もういい!寝る!」
意気揚々とラスボスに挑まんと門を開けて中に入って行ったマエラだが…彼女は
ある障害に阻まれ、かれこれ二時間の足止めを食らっていた。
そして、あまりにも上手くいかず、不貞腐れ、その場にドアを設置して中に入っ
て行ってしまった。
門を潜った先でマエラを待ち受けていた物…それは、魔物やガーディアンではな
かった。
目の前に現れたのは、マエラにとっては既に見慣れた物であった。まあ、イン
フォメーションセンターに行っていなかったら、何か判っていなかっただろうが。
そこにあったのはディスプレイ。
また、ディスプレイの前の床には、足裏の絵がつま先を上にして四方向に向
かって描かれていた。
戦闘が始まると思っていたマエラは拍子抜けしたが、自分の予感が外れて、まだ
ラスボスではなかったと気を取り直し、目の前の、おそらく謎解きであろう問題
に向かい合うことにした。
マエラが壁に嵌め込まれたディスプレイの前まで行くと、突然ディスプレイが光
り、キラキラと星マークや花火が弾けるエフェクトとともに文字が表示された。
そこには、こう書かれていた。
”JIDANDA JIDANDA FRUSTRATION(JJF)”
もちろん、マエラには何が書いてあるかわからない。
”ボス戦の前に、息抜きでゲームを楽しもう!”
”さあ、このゲームをクリアして、ボスに挑戦だ!”
続いて文字が表示された。この字は読める。
「あ、ゲームは知ってる。ゲーム機って言うのがあって、ディスプレイに映像を映
して色んな遊びができるものだったよね…」
”ゲームの説明を見ますか?説明を見るなら上向きの足裏マーク、説明を見ない
なら下向きの足裏マークを踏んでね”
マエラは案内に従い、上向きの足裏マークを踏む。
するとゲームの説明が動画とともに開始された。要約すると、次の様になる。
------------------------------------------------------------------------------
・ディスプレイの下から上に向かって、足裏マークが流れてくる
・流れてくる足裏マークは上下左右を向いている
・ディスプレイの上部にそのマークが達するのと同時に、床に描かれている同じ
向きの足裏マークを踏む
・難易度は、初級、中級、上級、達人級があり、より難易度の高いステージを
クリアすると、ボスの難易度が下がる
・成功率90パーセント以上でクリア
------------------------------------------------------------------------------
動画で実際にゲームをしている映像が流れたため、視覚的にも理解したマエラ。
「なんだ、簡単そう。ボス戦前に気分を落ち着かせようとしてくれているのかな」
マエラの目には、然程難しくは映らなかったようだ。
さらにディスプレイには、
”ゲームを開始しますか? 開始するなら上向きの足裏マーク、止めるなら下向
きの足裏マーク、もう一度説明を見るなら右向きの足裏マークを踏んでね”
と、表示された。
マエラは迷うことなく上向きの足裏を踏み、難易度の選択では、迷わず達人級
を選択する。
いいのかマエラ?本当にいいのか?
「レベル30を超えている私なら簡単にクリアできそう」
もうクリアした気になっている、すぐに調子に乗る人。
そして、”音楽に合わせて足裏を踏もう!”
と表示され、軽快な音楽とともに、ディスプレイの下部から足跡が流れ始めた。
「え?え!うそ!ちょっと!はや、早い!」
舐め腐っていたマエラ、MPを吸い取られそうな、高速ふしぎなおどりを披露す
る。
そして、”ブッブー”という音とともに、その場が赤く照らされるのであった。
~~~~~
マエラはあの踊りを誰にも見られなくてよかった。あんな踊りを誰かに見られた
ら、恥ずかしくてしばらく外を歩けない。
本当によかった、もし録画などされていたら、お嫁に行けなかっただろう。そし
て、この場に誰かがいなくて本当によかった。
もしあの踊りを見たら、その衝撃で暫く放心状態になってしまうだろうから。
クモさん…無事でいて。
「いきなり達人級は無謀だったかな…」
クモさんを凍り付かせた張本人であるマエラは、そう言いながら調子に乗った自
分を反省して初級を選択する。
ゲームが始まると、足裏マークはゆっくりと流れてくる。達人級と比べると、止
まっているも同然である。
マエラはタイミング良く足裏を踏んで行く。
踏んでいくが…若干グニャグニャしていて、なんか気持ち悪い…
「初級は、あの難関だった跳躍の罠を突破した私には簡単すぎね。ダンジョンさ
んもっと難しくてもいいんですよー」
と、ダンジョンをここまで踏破してきた自信がマエラを調子づかせる。
まあ、これをフラグという。マエラ、学ばない。
次第に足裏マークの流れが速くなってきた。すると、マエラの失敗が多くなって
くる。
「えっ!あっ!なんでっ!このくらいでっ!失敗するのっ!あっ」
グニャグニャ踊りが、やぶれかぶれ阿波踊りになり、最後はMPを吸い取るふし
ぎなおどりとなる。
もう…可哀そう。
あれ程マエラを撮ると意気込んでいたクモさんが、撮るのを止めたと言えば、そ
の悲惨さがわかるだろう。
そして失敗を続け、ゲームは強制的に終了となってしまう。
いやいや、レベル30越えのマエラの反射神経なら対応可能だろうと思うかもし
れない。
それはその通り、レベル10でも楽勝だ。下手をすればレベル1でもクリア可能な
人はいる。
では、なぜマエラはダメなのか。
その理由は…
悲しいことに…
マエラのリズム感は…
壊滅的だった。
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