039 マエラ ダンジョンを攻略する 2

 誰も幸せにならない事実が発覚するという、不幸な出来事であった。


 おそらく、足裏マークが流れてくるだけならクリアできていただろう(希望的観

測)。


 では、何が問題なのか。


 それは、音楽が流れていること。音楽があることで自分のリズムが狂わされ、タ

イミングが取れなくなるのだ。


 例えば、100メートルを10秒台で走れても、球技が壊滅的に下手という人は結構

いる。


 マエラのリズム感は、それと似たようなものである。普通の人でも、頭の中でラ

ジオ体操の音楽を再現しながらやっている時に別の音楽をかけられると、次の動作

がわからなくなるようなものである。


 音楽を無視すればいいのだが、やってみると中々難しい。


 頭で考えた動作が体に反映される際に音楽に邪魔されるのだ、知っている曲だと

猶更。


 今のマエラの状況がそれである。そして本人のリズム感の無さ、さらに素直な性

格が、その状況に拍車をかけている。


 そういう人ほどリズムに合わせようと必死になって、さらに駄目になる。反射で

動けばいいのに、音楽に合わせてリズムに乗って動こうとすると、頭と体が連動し

なくなるのである。


 マエラは、それが常人の何倍も酷いというだけなのだ(辛辣)。


 そして、なまじ人の域を超えた反射神経が、その動きを面白いものとしてしまっ

ている。


 笑えるならまだいい。マエラのそれは、目を背けたくなるのだ…


 本人は大真面目、でも、一生懸命やっているのが、痛々しくて…痛々しくて…


 ~~~~~


 それから何度も何度も挑戦した。


 人間は慣れるものだ、二時間もやっていれば体が自動的に動くくらいには慣れ

る。ようやく普通の阿波踊りになってきた。

 だが、クリアできない。自分では華麗なステップを踏んでいると思っている。だ

けど、失敗するのだ。


 まあリズム感がない人は、頭の中では完璧に踊っていたとしても、体が連動して

いない場合が常である。


 マエラはその場で地団太を踏む。


 ダンジョン作成者、満面の笑み。


「もう~なんでぇ~もういい!寝る!」


 ついには、不貞腐れた。


 マエラはドアを出して中に入り、ご飯を食べて風呂に入って、寝た。


 だが、布団に入っても、あの音楽が頭から離れない。あの陽気な音楽が、ずーっ

と頭の中に流れている。

 フラストレーションが溜まりまくって寝ることができない。あの何度聞いたかわ

からない、”ブッブー”という音も苛立ちを増幅させる。

「完璧に動いているのに、何が悪いの!」

 マエラは冗談抜きに、そう思っている。


「そういえば、スマホにあの機能があったっけ…明日やってみようかな…」


 悶々と考えているうちに、あることを思いつき、いつの間にか眠っていた。


 ~~~~~


 クモさんは、見てはいけないものを見てしまった。


 クモさんは、衝撃的映像を目の当たりにして、暫く動けなかった。


 様々な角度からマエラの雄姿を残すために魔法の習得をしたのに、固まってし

まっていた。


 クモさんは、マエラの”ふしぎなおどり”と”やぶれかぶれ阿波踊り”は封印するこ

とにした。


 クモさんは、ぽつりと呟いた。


「クモさん、”尊厳”や”辱め”って言葉、知ってる」


 ~~~~~


 そして再度JJFに挑戦したマエラは、床に手をついて嘆きのポーズをしていた。


「な…なにこれ…この変なの…わ…わたし…なの?」


 床には、マエラの手から零れ落ちたスマホ…そしてその画面には、ある動画が流

れていた。


 それはもちろん、やぶれかぶれ阿波踊りを踊っているマエラ。


 マエラが寝る直前に思いついた方法、それは、”とりあえず自分を撮影してみよ

う。そうすれば、改善点が見つかるかもしれない!”という結論だった。


 その結果が、嘆きのポーズである。


 自分の醜態を認識してしまったのである。


 いったい、どこをどう改善するべきなのか。改善するところが多すぎる、いや、

改善してどうにかなるのか?という事実に直面し、絶望感に包まれている状況なの

だ。


 どこからか、憐憫の目が向けられている気がする。


 人は問題に直面したとき、自分の行動や振る舞いを直視しなければならない。そ

うすることで、自らの行動を顧みることができるのだ。


 この場合は、自分の動きを直視することで、それを修正すること。必ず修正しな

ければならない。なぜなら、あの動きは、人の精神を不安定にさせる可能性がある

から。


「なんなの…これ…本当に…なんなの…腕…腕の動きが気持ち悪い。え…なんで私

こんな気持ち悪い動きしているの?足もおかしくない?なにこのへっぴり腰…気持

ち悪い…。ちがう…そうじゃない、もうこれ…全身気持ち悪い…」


 マエラは絶望と羞恥にまみれ、できれば目を逸らしたいが…直視した。


 あれを直視するのは、なかなかできることじゃない。マエラ、偉い。


 改善するためには嫌な事にも取り組む。そこがマエラの良い所である。


 ただ、こんな自分に耐えられなかったというのもある。今後、他人の目がある場

所でこういうことをする可能性があるかもしれないのだ。


 その時に醜態を晒さなくて済んだと考えれば、この時点で判明したのはよかった

と、考えが変わったのだ。


「一か所ずつ直していくしかない」

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 ・前のめりの姿勢を真っすぐにする


 ・ディスプレイを見すぎない


 ・全身力み過ぎだから力を抜く


 ・なぜか上に上がりたがる腕を上げない


 ・必要最小限の動きを心掛ける


 ・リズムは肩で軽くとる程度で十分

 ------------------------------------------------------------------------------


 マエラは問題点を洗い出し、恥ずかしい姿を自分で何度も撮影して、恥ずかしい

姿に何度も打ちのめされを繰り返すこと半日近く…


 マエラは華麗なステップを踏んでいた(驚愕)。


 これなら、お嫁に行ける。


 マエラは、やればできる子。


 そして、本番に臨み、


 最後の方で、踏む直前に流れが遅くなったり、早くなったり、停止したりと、

ちょっとした意地悪があったが、無事初球編をクリアしたのであった。


 あの惨状を、たった半日で、しかも独力で解決するとは奇跡ではなかろうか。


 だが、ぶれないマエラは調子に乗り、


「ボスの難易度は上がるけど、殴ればどうとでもなると思うし、これ以上は勘弁し

てあげようかな」


 またフラグを立てる。


 そうは言っても、自分の上達具合を確かめたいと思うのが普通であり…


 もう一度達人級をやってみた。


 結果…ふしぎなおどりに戻った。


 どうやら、初級の音楽にしか対応できていなかったらしい…


 悔しくて再チャレンジする。クリアはできなかったが、三回目で普通にステップ

を踏めるようになったマエラ。


 体を動かす方の学習能力は高いようである。


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お読み頂きありがとうございます。

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