034 ビルイの災難 3
暫く進むと、以前宝箱があった場所に来た。
宝箱の場所や隠し部屋を発見した場合はギルドへの報告義務がある。だが、報告
すると冒険者の稼ぎが少なくなるため、独占したいという気持ちになるのは仕方が
ない。そのため情報料として少なくない金額をもらえる。
ギルドとしても町としても、一時的な損失より継続的な収入を優先する方針なの
だ。
そうして集めたダンジョン内の情報は地図に落とし込まれ、販売されている。報
告者への情報量はここから捻出されている。
秘匿が発覚すると、罰金やダンジョンへの入場禁止などの罰があるため、基本的
に報告する方を選ぶのが当たり前になっている。
この宝箱の位置はずっと昔に発見されているため、秘匿する必要もないし、報告
しても情報料はもらえない。
ビルイがその場所を探すと、運が良い事に宝箱があった。
地図の場所に必ず宝箱があるわけではない。直前に通った冒険者が既に見つけて
いる場合も多く、滅多に宝箱を発見することは出来ない。
「宝箱を発見しました」
ビルイは冒険者達に報告した。
「どけ」
彼らはそう言ってビルイを突き飛ばす。
宝箱に群がった冒険者の一人が宝箱を開けると、罠が発動して矢が額を貫き、死
亡判定を受けてその場から消えた。
罠の警戒もせず開けるのは馬鹿としか言いようがない。
これで入場制限され、到達回数がリセットされた。次回はダンジョン入口からの
攻略となる。馬鹿である。
警戒をしていれば、死亡判定を受けるほどのダメージを負うことはなかったの
だ。まことに馬鹿である。
まあ、レベルが低かったので警戒しても無駄だったかもしれないが。
このように宝箱には罠がある場合があり、それは周知の事実だ。普通なら獣人
であるビルイに宝箱を開けさせる場面なのだが、なぜ冒険者が開けたのか。それは
ビルイがいなくなると困るからに他ならない。自分達だけでは何もできないから。
実はこの冒険者達パーティー”黒き竜爪”の構成人数は六人で、残りの三人はペナ
ルティを受けている。
片方がダンジョンに入れないときは、もう片方が潜るという形をとっているの
だ。そして、全員がダンジョンに入れない時は外で魔物を狩る生活を繰り返してい
る。
日によって宝箱の出現状況が変わるので、確率を上げているのだ。
しかも呆れた事に、黒き竜爪は情報収集を怠っており、ギルドで売っている情報
を買ってもいなかった。
ビルイの場合は買うお金がもったいないので、冒険者に雇われる度に頭に情報を
詰め込んできた。斥候のスキルで多少を覚えやすくなっているのもある。
ただ、ビルイのレベルは3である。10にもなっていないため、スキルの恩恵を受
けていないも同然だったりする。レベルが3だと、ほんとに多少といえるレベルの
恩恵である。まあ、教会がその辺の情報は秘匿しているため、知りようもないのだ
が。
気になる宝箱の中身はポーションが入っていた。一人を犠牲にしたが、十分価値
がある成果だ、幸先がいい。
ポーションは高く売れる。物によっては欠損を回復できるのだ、黒き竜爪の六人
で分けても一週間以上は楽に暮らせる。
まあ、発見者のビルイがポーションを手に入れられるわけではないのだが、報酬
が増えるのは喜ばしい。ビルイにとっては大きな収入になる。
その後も、宝箱を一個、魔物を十匹倒した。
そして、三つ目の宝箱を開けたところで…
「お前!くすねたら、ただじゃおかねぇからな!」
三人目がそう言い残して消えて行った。
その捨て台詞はいつもの事なので、特に気にしない。冒険者が全滅する際の定型
文となっている。
宝箱の中には、またポーションが入っていた。
宝箱を三つも発見できることは滅多にないため嬉しさもあるが、ビルイは逆に怖
くなってきていた。
~~~~~
一人になったビルイは、頭に入っている地図を頼りに、この階層の最初の位置へ
戻って来た。
もう年単位でこの階層から進めていないビルイは危機感を覚えていた。そろそろ
先に進まないと、自分も黒き竜爪のように宝箱や魔物に遭遇することが無くなって
しまうのではと。
だから、この機会を有効に使い、次の階層への入り口を見つけようと決意したの
である。
普通に考えれば最奥にそれはあると思われるのだが、このダンジョンが攻略され
初めてこのかた、数えきれない人が挑戦してきたにも関わらず、次の階層への入口
は見つかっていない。そのためこれ以上は階層がないとも言われている。本気で攻
略する意思がある者がいないのだから仕方がないのだが。
もしかしたらギルドに報告していないだけで、既に先に進んでいる者達もいるか
もしれない。
…そんな人物は…実際にいるが…不法入国し(犯罪)、ギルドに登録ぜず(犯
罪)、ダンジョンに不法侵入(犯罪)し、ダンジョン産のアイテムを懐に入れてい
る(犯罪)者が…
※犯罪はカーネラリアン聖王国とギルド視点
入口から少し行くと次の転移位置があるため、ここは一度過ぎるとあまり来るこ
とはないが、行き詰ったときは初心に戻るのもよい。わりとそれで光明が見えたり
するものだ。
ビルイは何かヒントが無いか周囲を観察する。
やはり目立つのは、目の前にある巨大な足裏のマーク。何か意味があると思うの
は当然だ。だが、何度見ても何の変哲もない足裏マークなのだ。
考え込んでいると、集落の知り合いが転移してきた。
「おう、ビルイじゃないか。一人ということは居残りか?」
「ツラワンか。ああ、そうだな」
「何か良い物あったか?」
「宝箱10個見つけたぞ。ポーションに金塊、伝説の武器まであったな」
雇い主である冒険者の稼ぎを獣人が漏らすことはできない。これは獣人達の定番
の挨拶である。
「そりゃあ羨ましい限りだ。で、こんなとこで突っ立って何してるんだ」
「ちょっと真剣に攻略しないと、そろそろまずいと思ってな」
「あぁ…そうだよなぁ…俺も他人事じゃあないなぁ」
「次の階層の入り口見つけてやるから、待ってな」
と、雑談をしていると、
「おい獣人!無駄話してんじゃねーよ、さっさと行け!」
転移してきた冒険者に怒鳴り散らされた。
「申し訳ありません!」
ツラワンは目で挨拶をして離れて行った。
ビルイは、改めて足裏マークの模様を見る。
閃きとは、意図せず起こる。もちろん自分の中に知識や経験が蓄積されていなけ
れば起きようもないが。
ビルイは頭の中にあるダンジョンの地図に、足裏の模様を重ねる…すると、ダン
ジョン内の通路や部屋が、完全に一致というわけでないが、全体的にこの足裏マー
クと対応しているのに気づく。
そして壁のマークには、一か所だけ色違いの場所があった。右足の親指にあたる
場所。その場所が、すこし黒ずんでいるのだ。
ダンジョンの壁や床は破壊することができないし、変色することもない。劣化や
悪戯によるものではないはずだ。
ビルイは身震いした。
そして、その場所に向かって歩き出した。
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