033 ビルイの災難 2
呼び出されたビルイは受付に行ったが、そこにいたのはハズレであった。
つまり、評判のよくない冒険者パーティーなのだ。しかもビルイにとっては因縁
のある相手でもあった。
ちなみに、冒険者の小規模な集まり、共にダンジョンに入ったり狩をしたりする
単位を”パーティー”という。このように、誰が、いつから言い出したのかわかない
言葉がダンジョン関係では存在する。ダンジョンで獲得できる資源を”アイテム”と
言ったりするのもその部類である。
「”黒き竜爪”の皆様、私を選んで頂きありがとうございます、本日はよろしく願い
します」
と、ビルイは三人組の男達に頭を下げる。
一方人間の冒険者達は、
「今日は二階だ、先に行け」
とだけ言う。
「ありがとうございます、では先導させて頂きます。露払いはお任せ下さい、一歩
でも先へ進めるよう精一杯頑張ります」
ビルイは力強く宣言する。
獣人と冒険者の間には会話は殆どない、あるのは命令だけである。だが、冒険者
には丁寧な言葉を使わないと不愉快になる奴らが多いため、遜る程丁寧に接する必
要がある。
行き先は基本的に獣人が到達している場所になる(最初に移動する場所は冒険者
が到達している場所だが)。ギルド側も資源を持って来る安い労働力が減るのは避
けたい。浅い場所でウロウロさせて、資源を回収できなくさせるのは避けたいので
ある。
もちろん人間の冒険者にもそう忠告しているのだが、冒険者になる人間の人間性
が偏っているのもあり(もちろんダンジョンを攻略しようと思う冒険者もいるが、
それは少数)、次第に周囲の環境に染まっていく。
一度躓くと、再び挑むか諦めるかの選択に直面する。そんな時、より楽なやり方
があればどうだろう?まあ、殆どの人間が飛びつく。
装備や道具を揃えるにも金がかかる。自分が積極的に動かなくても稼げる方法が
あり、他の冒険者が真面目に攻略している自分よりその方法で稼いでいるのを目の
当たりにしたら、馬鹿らしくてやっていられないという気持ちになるのは自然な流
れだろう。
同様に、ビルイ達獣人も攻略する意思を見せなければ、いずれこの冒険者達と同
じ状況になってしまうため、ダンジョンを攻略する意思を見せる必要があるのであ
る。
意味不明だが、ダンジョンはそれを把握し判定しているのだ。
ビルイを雇った冒険者達は、既にダンジョンから何も手に入れることができない
状態になっている。ダンジョンを攻略する意思もない、甘い汁を啜っているだけの
輩ということだ。
ダンジョン内は、他人の目が届かない場所である。
他の冒険者がいるにはいるが、目立たない場所は存在する。すると、悪い事を考
える者達が出るのは必然である。
それは、獣人にとって恐怖でしかないのだが…
ビルイはダンジョンの入り口に向かって歩き出した。
そして入口付近の外壁に、文字が浮かんでいるが目に入った。それは、ビルイ達
獣人にとって身の安全を確保するものでもある。
上述で、ダンジョン内で罪を犯すとダンジョンに入場できなくなるとあったが、
実は罪を犯す寸前で拘束され、ダンジョン外に排除される。
そのため、実際は被害に遭うということはない。
ということで犯罪未遂の状態なのだが、入り口には犯罪者として永遠に名前が刻
まれることになるのだ。永遠に…
~~~~~
ビルイはダンジョンの入口に入り、淡く光る床に足を踏み入れる。そして、慣れ
た手つきで石柱に表示された転移先を選択した。
直後、彼の姿はその場から消えた。
転移したビルイの前には、見慣れたダンジョンの光景が広がっている。
ダンジョン内は、一面ブロック状の石なのか金属なのかわからない物質が、床か
ら天井まで敷き詰められている。
ちなみに、その素材は不明で、傷をつけることも出来ない。
この場所は以前到達した場所。というか、ここから進めていない。魔物が強いわ
けではなく、進み方が分からないのだ。
ビルイも熱心にダンジョンに来ているわけではない、ダンジョンに来るのは、少
額でも確実な稼ぎが必要なときと、当番になったとき。
なんだかんだ言って、労働力としても獣人は重宝されているため、ダンジョンに
同行するだけの頭数を確保する必要があり、決まった人数がダンジョン来るように
お達しが出ている。
ビルイの感覚では、ダンジョンに来る頻度はダンジョンの攻略意欲に反映されて
いないように思える。日常生活もあるため、何日もダンジョン内に籠ることはでき
ないし、そうそう来れる場所ではないため、当然と言えば当然だと思うが。
おそらくダンジョンに籠りっぱなしの人がいたら、ダンジョンから優遇されるだ
ろうとも思っている。だが、財力がなければそんなことは無理だし、ダンジョン内
で食事や睡眠をどうするのかという問題もある。
実はダンジョン内には敵や罠がない場所が存在するのだが、ダンジョン内で何日
も過ごしている某トレジャーハンターとそのトレジャーハンターが所属する得体の
しれない商会以外には知られていない。彼ら以外は、そこまでたどり着けてもいな
いのだ。
今の所、ビルイの宝箱の出現率も、魔物との遭遇率も減ってはいないため安心で
はあるが、今後も同様かは不安なところではある。
ビルイが先に転移して間を置かず、冒険者三人も転移してきた。
「行け」
冒険者はビルイにそう命令した。
冒険者達がダンジョン内を動き回ろうが、宝箱は発見できないし、魔物にも出会
わない。出会ったとしても瞬殺されて入口に転送されるだけ。
ダンジョン内ではビルイの後についていく他はないのであった。
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