032 ビルイの災難 1
獣人は、単独、複数に関わらず、獣人のみでのダンジョンへの入場を禁止されて
いる。入場するには、斥候や荷物持ちなど、人間に役割を与えられて同行させても
らうしかない。
そして、その同行相手も自分で選ぶことはできない。
ダンジョンに入場するには、ダンジョン入口の脇にある獣人用の登録場所に、名
前と希望職、ダンジョン内の到達場所を伝えると、その役割を必要とする人間の冒
険者達に自動的に割り振られる。
それはそれで、平等に仕事が割り振られるので考え方によっては良いことである
が、人間側が拒否すれば同行は許されない。
だが逆に、人間側が曰く付きのどうしようもない屑であっても、獣人が拒否する
ことはできないのである。
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その日ビルイは、獣人の集落からカシンの町の中にある、石造りの頑丈な建物の
前に来ていた。
その建物の中にはダンジョンがあり、所謂、ダンジョンの管理をするために造ら
れた建造物である。
なぜダンジョンがこの場所にあるのかは不明だが、カシンの町はダンジョンがあ
ることで誕生した。
それはどういう意味かというと、元々カシンの町は今の場所から東に1キロ程の
所にあったのだが、ダンジョンが発見されたことにより、この場所に移動したと言
われている。
ダンジョンはこの地だけではなく、人間の大陸の様々な場所で見つかっている。
最初は意味不明な施設であったが、内部から魔石や鉱石、武器や様々な道具が入手
できると判明すると、その価値が一気に跳ね上がったのだ。
そのダンジョンがカシンの町の近くの森の中に発見されたとあって、町(当時は
村という規模だった)は湧いた。
当然、冒険者だけではなく一般人も一攫千金を夢見てダンジョンに入る様になる
が、そこは直に無法地帯となる。せっかくの資源が他の町や他国に流れることにも
なった。
最寄りの町としてお金は落ちるが、当然、国もカシンの町も面白くない。
最初はダンジョンから得られる資源をその場で買い取りするために冒険者ギルド
の出張所があったらしいが、冒険者ギルドを通さない売買や不法入場が多発したこ
とで、その取り締まりを強化した。
次いで、商人ギルドも冒険者ギルドに独占させないため、同様にダンジョン周辺
に支店を設ける。
するとダンジョンの有用性が認知されることで、様々な業種の者達がダンジョン
の周りに集まることになる。
次第に元の町は寂れ、ダンジョンを中心とした町が形成されたのであった。
しかし、冒険者ギルドや商業ギルドの裏には教会がおり、ダンジョンの利益を独
占する仕組みを作り上げたというのが本当のところであるのだが…
少し話が逸れたが、ダンジョンはこの町の生命線となっているため、この建物は
人や物の出入りを監視するための施設と言った方が正しい。
ちなみにダンジョンの外観は、スタイリッシュな竪穴式住居という印象だ。もち
ろん粘土や葦で作られているわけではなく、光沢のある金属で出来ている。
外壁には模様があり、ダンジョンごとに違う。このダンジョンの外壁には足裏の
模様が描かれている。
竪穴式住居に似ているからと言って、内部は竪穴が掘られている訳ではない。入
口は地表から50センチ程上、緩やかな幅が広い階段を上がった場所にある。
そして入口は楕円形状で、高さは2.5メートル、内部の高さは4メートルはある。
床は直径3メートル程の円状、奥まった場所に直径1メートルの淡く光る床と石柱
が存在しており、石柱の上部は斜めに切り取られている。
ダンジョン内部への入り方は、その淡く光る範囲に入ると、石柱の上部に行先が
表示される仕組みになっている。
行先は、自分が到達した場所までにあった転移ポイントが表示されており、そこ
から行きたい場所を選択して、その個所を押すことで転送される。
ちなみに、転送は一人ずつである。
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というわけで、ビルイが石造りの建物に来た理由は、ダンジョンで仕事にありつ
くためだ。
ビルイは"斥候"の技能を持っている。
ダンジョンでは嫌な思いをする。それでもダンジョンに来るのは、森で魔物を探
すより効率的に稼げるからである。妻子を持つ身としては、少しでも多く稼がなく
てはならない。
受付で登録し獣人用の待機場所で座るが、間を置かずに名前を呼ばれた。
というのも、獣人の斥候職はそれなりに需要があるのだ。
第一に、獣人は同じ職の人間よりも安く使えるため、人間達の取り分が増えるこ
と。そして第二に、人間が安全にダンジョンを攻略できるから。
その理由は、獣人のダンジョン内での振る舞いに、ある暗黙の了解があるからで
…
それは、”本気でダンジョンを攻略する姿勢を示すこと”と、”率先してダメージを
受けること”である。とは言え、それにも限度はあるのだが…
こんなルールが出来た原因は、ダンジョンのルールに関わってくる。
ここでもう一つ、ダンジョンの仕組みを説明しておく。
ダンジョンには、以下のルールが存在する。
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・死亡判定を受けると、一定期間ダンジョンに入れなくなる
・死亡判定を受けると、到達階層がリセットされて、最初から攻略し直さなけれ
ばならない(条件次第でペナルティを受けない場合がある)
・ダンジョンを攻略する意思がないと、宝箱や魔物やガーディアン(機械兵)を
倒した際にアイテムが出る確率が低くなり、ダンジョン内で高レベルの魔物やガー
ディアンに襲われやすくなる
・ダンジョン内で罪を犯すと、ダンジョンに入場できなくなる
・ダンジョン内で罪を犯すと、入り口に名前が表示される
・ダンジョン外で罪を犯していてもダンジョンに入れるが、死亡無効が適用さ
れない
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ダンジョンから得られる資源や道具だけが目当てで攻略する気がない者達は、ダ
ンジョンの資源を得ることも出来なくなるというシステムになっている。
これらの制約があるため、条件を満たしてしまった人間の冒険者が、宝箱や魔物
などが落とすアイテムを獣人に手に入れさせ、自分達の物にする慣習が生まれてし
まった。
しかも、ダンジョンに入る前に取得物の割り当てを決め、さらにダンジョン内で
獣人が自ら危険なことを率先して受け持つという状況を作り上げることで、ダン
ジョンのルールの抜け道をついている。
これが、獣人が強いられている暗黙の了解なのだ。
誰がダンジョンを造り出したのかは不明だが、作成者はダンジョンを楽しんで欲
しかったのだろう。それはダンジョン内では犯罪や死亡に関して一定のルールが定
められていることからもわかる。
まあ、”但し善人に限る”ようだが。
しかし、このような環境は全ての人間を監視しなければ成り立たないのだが、ダ
ンジョンとは、一体どのようなシステムで動いているのであろう。
このように獣人にとってのダンジョンは、命を落とすことなく最低限ではあるが
必ず稼げる場所となっている。だがその代わり、人間が決めたルールにより必ず不
快な思いをしなければならない場所でもあった。
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