030 能力カード
マエラが使ったカードは”能力カード”と言い、使用することでカードに書かれた
能力が獲得でき、ステータスウィンドウの能力の項目に追加される。
”能力”に記述されるものは後天的に得られた能力で、自分の努力により得られ
る。魔法や、”なんか得意だな~”と思っていたことが能力として発現している場合
があるため、本人が気づいていない場合もある。
”能力”は、自分の努力によって獲得したもの。云わば、”スキルは借りもの”、”
能力は自前”ということである。
”スキル”は”能力”より強力な場合があるが、自分の能力以上のものを、マニュア
ルを見て使っているだけ、体に身についていない。
さらに別の言い方をすれば、”スキル”はスマホやパソコンを使って様々なことが
できるが、中身がどういう理屈で動いているかわからないもの、”能力”は一度自転
車に乗れれば、一生乗れるようなものなのだ。
その能力が得られるのである。
能力カードも借りものだと思うかもしれないが、能力とスキルには明確な違いが
ある。能力は一度習得すれば忘れることはなく、なぜそうなるかを全て理解してお
り、最初から手足の様に使えるのだ。
まさに”破格の能力”である。
その能力カードにより”飛翔”を獲得したマエラだが、その他に”気配察知”も取得
していた。この能力の取得には、スキル内の”魔物感知”が影響している。
”魔物感知”はその名の通り、魔物の気配を感じ取れる能力である。基本一人でダ
ンジョンを攻略するトレジャーハンターにとっては必須の能力と言える。
トレジャーハンターのスキルレベルが2になることで取得したわけだが、先日の
レベル上げでは周囲から魔物の殺気を浴びせられまくり、かつ、その殺気に気づけ
なければ瞬時に命を刈り取られる状況に置かれたことで、スキルを常時発動するこ
とになった。そのことにより、スキルの機能の一つである”魔物感知”ではない自身
の能力の”気配察知”として定着したのである。
このように、スキルから派生した能力を獲得することもある。
長々と説明したが、”飛翔”などという能力を得たら、やることは一つである。
飛んだ、マエラは飛んだ。
翼を広げて、鳥の様に飛んだ。
魔力が続かず落下するも、今のマエラはそのくらいでは動じない。床に打ち付け
られることなく、問題なく着地をする。
レベル上げで、マエラの精神は依然と比べ物にならないくらい強くなっているの
だ。だが、その事実に本人は気づいていない。自分のことに関してはそんなもので
ある。
そして、魔力が少しでも回復したら飛翔する。
「ふははは!私は解き放たれた!私は自由!私を縛るものは何もない!私は女神の
化身マエラ!……はぁ……」
半日程はしゃぎにはしゃいで、恥ずかしすぎる言葉を口にした時点で正気に戻っ
たマエラ。
「何やってるのよ私…馬鹿じゃないの…何よ女神の化身って…恥ずかしすぎる…」
しゃがみ込み、真っ赤な顔を両手で覆っているマエラ。
地面に繋ぎ止められる運命のくびきから解き放たれ、自由に飛ぶという、史実で
は確認出来ていない誰も経験したことのないことを成し遂げたのだ、我を忘れても
仕方がない。
だが、”女神の化身マエラ(笑)”は、いくらなんでも酷い。
当然、マエラの雄姿はしっかりと録画されていたが…流石に、これを公開するの
は止めて差し上げて欲しい。
そして最後に、”魔力操作”の能力について。
魔法を使うには魔力操作を覚えなければならない。飛翔は魔法のため、自動的に
魔力操作も身に着いていたのだ。
この魔力操作は、使える者は非常に少ない。何十万、何百万人に一人という確率
だ。だから今回マエラが手に入れた能力カードは、とんでもない価値があったので
ある。
ちなみに、スキルで魔法を使えても、能力として魔力操作は持っていない。
魔法を使うには魔力が必要である。魔力は枯渇を繰り返すことで保有総量が増し
ていく。そう言った意味では、飛翔は今のマエラの身体能力と合わさって、とても
よい魔力の練習になるだろう。
現に、正気に戻るまで何度も飛翔を繰り返したマエラは、この間に魔力の総量が
劇的に増加した。
そして魔力操作を覚えることの利点は、他の魔法も使えるようになること。マエ
ラがやる気になれば、様々な魔法を覚える事ができるだろう。
あと、老化が遅くなると言う、とても素敵な効果があったりする。
このように、飛翔はマエラに物凄い利点を齎し、ダンジョン攻略を容易にしてく
れるはずだが、マエラはそうは思っていないようである。
確かに、危ない所は飛んで避けられるが、それではダンジョンの醍醐味がないと
感じている。
「私はダンジョンを楽しみたい。真剣にダンジョン攻略しているから、この能力を
得られたんだもの」
既に”飛翔”は自分の能力だが、マエラはその能力をできるだけ使わずにダンジョ
ン攻略をしようと決めたのであった。
~~~~~
余談だが、ダンジョンの仕組みを少し説明しておく。
マエラは宝箱を全て見つけることを目標にダンジョンを進んでいるが、宝箱に辿
り着くまでには何らかの仕掛けが用意されていることが多く、頭脳や体力が求めら
れる。
ただし宝箱は取らなくても先へ進める。だが、宝箱を取れる実力が無ければ、少
し先で必ず詰む。ダンジョンはそういう仕組みで構成されているのである。
そして、ダンジョンでは死ぬことはない。しかしダメージの概念はあり、死亡と
判定されると強制的に入り口に転移させられ、一週間の入場制限がかかる。
だが、ある道具を持っていることで、死亡判定が出ても、それを無かった事にで
きる。
それは手首につける腕輪(バングルともいうが、ここでは腕輪とする)。腕輪は
ダンジョン内の宝箱や魔物を倒すことで入手可能だ。だが、ただ腕輪を持っていて
も駄目で、相応の価値のある魔石を腕輪に入れておく必要がある。
魔石が充填されると、腕輪の宝石の色が赤から青に変わり、その状態で死亡判定
を受けると、その場で復活か、入場制限なしで入口に戻るかを選択できる。
ただ、問題が魔石。魔石は高価で、死亡判定をなかったことにするために魔石を
貯めておくなら、売った方が実入りが良いのだ。
そもそも、死亡判定を無しにできるだ。それには高品質の魔石や、低品質でもそ
れなりに多くの魔石が必要になる。そのため、腕輪を持っていても無用の長物と
なっている場合が通例である。
ちなみにマエラはポメラから魔石を支給されていたが、自分で魔石を集め、支給
された魔石は返却した。
ダンジョン内には転移装置があり、出口に設置された転移装置に帰還できる。ま
た、その逆も可能である。
ダンジョンを構成する物質は外部に持って行くことはできない。持ち出そうとし
ても消えてしまう。場所によっては非常に高価な物が無意味に使われている。
実は、マエラが能力カードを見つけた部屋の床は、一面ダイヤモンドが敷き詰め
られていたりする。
宝箱は中身を取ると消えるが、ただ一つ例外がある。それは小箱、マエラが見つ
けた黒い小箱は、いつまでたっても消えずに残っていたため、一目見た時から心を
奪われていたマエラは、アイテムボックスに入れてダンジョンを出た。
そして、アイテムボックスの中に小箱が入っているのを確認して、一人でニヤニ
ヤしながら空を飛んで喜んでいた。
~~~~~
その後、ダンジョン攻略を再開したマエラを待ち受けていたのは…
・通路の途中に幅が二十メートルの穴
→橋渡しになるような物はないので、自力で飛び超える
・上の階に行くための体を打ち上げる床
→上の階の床は真上にないため、身体能力勝負
・足場が突き出ている、毒々しい液体で満たされている池
→精神力と身体能力勝負
・足裏マークがある敵
→足裏だけで攻撃しないとダメージが通らない
・100mを9秒の速さでランダムに移動している足裏マーク
→その足裏を踏めば宝箱ゲット
などの、結局体力勝負だらけの罠ばかりであったがダンジョン攻略は順調に進
み、最奥らしき場所を発見したマエラは、一旦その報告をしにインフォメーション
センターに帰還していた。
しかし、インフォメーションセンター内の雰囲気がおかしい。
インフォメーションセンターに来ているお客さんは普通なのだが、従業員達が明
らかに気を取られている、マエラに。
インフォメーションセンター内の全員が、チラチラと彼女を目で追っている。
接客業にあるまじき失態、同じ商会の一員とはいえ、相手に不快を与える行為
を、業務中にしてはいけない。そのような態度は、お客さんにも伝わるのだ。
あれ?あの女性に何かあるんじゃないのか?と、いらぬ情報を与えてしまうの
だ。
そもそも、インフォメーションセンター内では以前からマエラに過度な接触をし
ない様にと通達が出ているにも関わらずこの状況なのだ。それだけ商会内では、マ
エラの世紀の大発見が衝撃的だったのだろう。
当然マエラも、その視線に気づく。
そして、”自分が疑われているのでは?”という結論に至る。自分の行動のせい
で、今まで秘密にしてきた反教会同盟の存在が明るみになってしまったのではと。
「心配しないで下さい、そのような事実はありません。私の所に最近人間の女性が
会いに来ているので、皆が不審に思っていたそうです。ですから、新たに従業員に
なった方で、今まで試験をしていましたと説明をしました。不快な思いをさせてし
まい申し訳ありませんでした。私から注意しておきますので。今後は不躾な視線は
なくなると思います。ですので、マエラさんは一気にダンジョンを攻略しちゃって
下さい!計画の進行状況を考えても、早ければ早いほど嬉しいですね」
ポメラに相談したら、そう捲くし立てられ、
「朗報を待ってます、これは息抜きに食べ下さい」
と、焼き菓子の詰め合わせを渡され、事務的に送り出されてしまった。
マエラは”何かあったのでは?”と訝しんだが、自分がここにいない方がよいと判
断して、ダンジョンに戻って行った。
その後、ポメラからインフォメーションセンター内の従業員にお叱りメールが届
き、やらかした該当者には、”一週間甘味禁止令”が出されたのであった。
~~~~~
「マエラさんが勘違いしている間に早く結末まで持って行こう。マエラさん純粋で
良い人過ぎて、もうこっちが耐えられなくなってきた」
「罪悪感を覚えるなら、心は人間辞めてない証拠ですよ、でも土下座ですね。ハハ
ハ」
「だから言ったじゃないですか、人の心を弄ぶのは駄目だと。そういうのは、結果
的に自分に返ってくるものです」
遥希の自業自得の罪の告白に対し、銀髪の男女がそう言ったのであった。
「もちろん謝るよ、土下座しなきゃいけないのも理解しているけど、子供達の前で
は勘弁してほしい」
親として無様な格好は見せたくない遥希であった。
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