025 馬面教官の扱き 2

 ジルベスタはズダロンの肩を抱いている。


「申し訳ありません…」


 マエラは踏み込み過ぎたことを反省した。人には踏み込んではいけない事情があ

る。それが身体的なことなら尚更だ。


 そして、目の前の二人の絆の深さも感じていた。

 マエラはいつも、良い感じに騙されてくれる。周りの演技が上手いのか、マエラ

が素直過ぎるのか…。よくそれで商人を…と思うが、商売は商売、素のマエラとは

違う顔を持っていたのだろう。


 だから、騙す方が辛くなってくるのである。一秒でも早くマエラにダンジョンを

攻略してもらわなければならない。


「さあ、お面をつけて下さい。嫌なら馬にしますか?」

「大丈夫です!狐がいいです!」

 マエラは食い気味に言う。あれを被ったら、何かを失いそうなのだ。


 マエラはまじまじとお面を見た。


 地色は白で、髭、耳、目の縁が赤色、鼻と目の上の線が黒に描かれていた。使っ

ている色は少ないのに、洗練されている。


 どこか、神秘性を感じる。


 ジルベスタの言った通り、目の箇所には内側に何かが貼られており、お面を被る

と視界が無くなる。


 マエラはいきなり暗闇になることで不安感を覚えて動揺してしまい、何もない空

間を手で探るような動作をしてしまった。


 しかし直後、マエラは手に温もりを感じ、その温かさに落ち着きを取り戻す。


 ズダロンがマエラの手を握ったのであろう。


 小さな手だった。


 だが、どこかで感じたことのある優しさに溢れた握り方であった。


「では、行きましょう」


 ジルベスタがそう言い、マエラはズダロンに手を引かれて歩き出した。


 見えないと言うのは怖い、ダンジョン内で視界を奪われたら対処できるのかと不

安になる。


 移動には一分もかからなかった、ジルベスタに「着きましたのでお面を外してい

いですよ」と、言われる。


 そして「帰りにまたつけてもらいますが、お面は差し上げます。それまでは目隠

しのシールは取らないで下さいね」と声をかけられた。


 実はマエラ、一目見た時からこのお面を気に入っていたので、内心嬉しかった。


 マエラは狐面を外し、「ズダロンさん、ありがとうございました」と、誘導して

くれたズダロンに御礼を言った。


 ズダロンは「うぐぅ…」と、くぐもった声をさせて頷く。


 マエラはそれを聞いて微笑んだ。


 ~~~~~


 マエラが移動した先は、巨大な木々が繁茂する密林であった。


 人の手が全く入っていない原生林、四方八方から奇怪な叫び声が聞こえ、生物の

気配が肌で感じれる。常に命の危機を感じるような…


 マエラが緊張を鎮めようと息を吐いた時だった、ジルベスタが金属の棒を取り出

して、いきなりマエラへ殴りかかってきた。


 突然の行動に、マエラは瞬きすらできず棒立ちだったが、棒はマエラの頭上を通

過し、何かを吹き飛ばす音がした。


 そして、マエラ頭上から何が降ってきた。


 あまりの出来事にマエラは棒立ちのまま。


「すみません、驚かせてしまいましたね。声をかけていたら間に合わなそうだった

ので…ここらへん魔物だらけなんです…あの…本当にすみません…クリーンの魔道

具持っていますよね?」

 ジルベスタの声が尻つぼみになっていく。


 何が起こったのかというと、ジルベスタはただ、マエラを守っただけ。


 詳しく説明すると、ジルベスタの攻撃は、マエラの背後から襲い掛かってきた魔

物の体を吹き飛ばした。そして、その魔物の切断面から噴き出した体液や爆散した

体の一部が真下に降り注いだのである。


 体勢を維持できなくなった体が、マエラの横に、”どさり”と倒れてきた。


 ジルベスタはマエラを助けただけなのだ。ただ、被害を考慮する暇が無かっただ

けなのだ…


 臓物と体液塗れになったマエラが視線を下に向けると、巨大な蛇の頭部が落ちて

おり、光を失っていない瞳がマエラを見ていたが、


 ”グシャ”


 ズダロンが”それ”を無言で踏み潰し、何かがマエラの体に”ベチャ”っと張り付

く。


 ズダロンが、マエラに付着した何かを、申し訳なさそうに見ている…気がする…

馬面だけど。


「こ…ここの魔物は、あの状態でも襲ってくることがあるので…気をつけて下さい

ね!」


 ジルベスタが、努めて明るく言うのであった。馬面で。


 ~~~~~


 ジルベスタとズダロンの会話


 身を清めているマエラの真ん前で…


【お姉ちゃん、これ、やっぱり見にくい】

【我慢して、見えなくても気配で察知できるじゃない。あと、お姉ちゃんじゃない

でしょ、ジルベスタだよ】


【でも…踏むところ間違えて、マエラお姉ちゃんにかかっちゃったし】

【それは私もやっちゃったから、強くは言えないけど…】


【でも、マエラお姉ちゃんが怪我しなければいいんだよね!】

【それが最優先ね。だけど私達ならマエラさんの十センチ先に危険が迫ってもそこ

から対処できるわ】


【ジルベスタお姉ちゃん、おとうさんが慢心は駄目って言ってた】

【そうね、ありがとうズダロン。でもお姉ちゃん付けたら意味ないでしょ】


【あと、ずっと黙ってるのも大変】

【だめ、絶対喋っちゃだめだからね、ズダロンは演技が苦手なんだから。二回危な

かったよ、気をつけてね】


【う…うん】

【よし、いつもの様に鍛えるよ!】


 果たして、ジルベスタとズダロンの正体とは!


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