024 馬面教官の扱き 1
次の日、マエラはポメラに指定された場所に来ていた。
そこは、巨大な城壁に囲まれたインフォメーションセンター内にある、従業員が
休み時間に休憩したり、休日に遊戯を楽しんだりするために造られた広場(公園と
いう)で、マエラはその公園にある木製のベンチに座っている。ちなみに”ベンチ”
という単語も覚えた。
待ち合わせ時間より早く来てしまい手持ち無沙汰であったため、今もポメラに
渡された”リビール商会 必須単語2000”の単語帳を見て勉強をしている。
公園にはマエラ以外おらず、風が木々を揺らす音と紙を捲る音だけが聞こえてい
る。心地いい時間である、スイーツと紅茶があればなお良い。
”プログラマー”という単語の内容を読もうとしたとき、単語帳に影が落ちた。
「あなたがマエラさんですか?今日からレベル上げのサポートをすることになりま
した、ジルベスタとズダロンです。よろしくお願いします」
そろそろ時間という刻限だったが、集中していたマエラは人の接近に気づいてい
なかった。
「あ、すみません、マエラといいます。本日からよろしくお願いします!………」
単語帳をパタンと勢いよく閉じて、頭を下げたまま自己紹介をし、その頭を上げ
たマエラは動きが止まった。
「どうかしましたか?」
どうかしました?というか、「どうかしているのはあなた方です」と、マエラは
口に出かかった言葉を飲み込んだ。
「集中して物事に取り組むのは良いことですが、もし私達が魔物だったら、あなた
は命を落としていました。これからのレベル上げでは、気配の察知や周囲への警戒
も学んで行きましょう」
そうダメ出しと忠告をされても、それが頭に入ってこない。
この教官達はふざけているのか、とマエラは少し腹が立った。
「ああ、この姿ですか。これについては質問しないように、理由は答えられませ
ん、必要があってやっていますので。同盟と言えばわかりますよね?声も変えてい
ますが、聞き取りにくくありませんか?」
ジルベスタと名乗った人物が、マエラの動揺に気づいてそう言った。
マエラが訝しんだ理由。それは、現れた二人の教官が馬の頭部を模ったマスクを
被っていたのだ。
正に「何?この人達」である。しかし、同盟関連と言われればどうしようもな
い。絶対に正体がバレてはいけないのであろう。
マエラはそう納得し、「問題ありません」と、頷いた。
この二人は明らかに年下だと思われる。リビール商会は獣人が多いから獣人なの
だろうか?(馬面のため判別不可)そもそも獣人は幼い見た目でも大人の場合もあ
るが。だが、年下だろうが関係ない。今回は自分の教官なのだから、上司のつもり
で接しようと決めた。
「マエラさんはレベル20を目指していると聞きましたが、間違いありませんか?」
「はい、今はレベル12なので倍くらいないと今後の活動に支障がでそうなので」
ジルベスタの確認にマエラはそう答えたが、
「一般的なダンジョンを攻略するならレベル20では心もとないですね、レベル30
まで上げましょう」
と、提案された。まるでダンジョン探索をしたことがあるような言い方である。
「教官はダンジョンに入った事があるのですか?」
「ええ、足裏ダンジョン以外ですが」
「足裏ダンジョン?」
「マエラさんが現在攻略中のダンジョンの名前ですよ?知りませんでしたか?」
安易な命名である、作成者のセンス…これ以上言ったら、どこかで誰かが泣くの
で止めておく。そもそも、名前は分かり易いのが一番である。もし、ジョナサンの
ダンジョンとかだったら、それこそ意味不明だ。
「ダンジョンには名前がついているんです。ステータスウィンドウを出して下さ
い、そこに攻略中のダンジョンとその階層が書かれていますから」
マエラはステータスウィンドウを出してスクロールしていくと、下の方にダン
ジョンの項目があり、言われた通りに足裏ダンジョン5層攻略中とあった。
「ありました、ダンジョンって名前があるんですね。レベルしか確認していなかっ
たので、気づきませんでした。足裏ダンジョン…そのままですね」
「ステータスウィンドウに記録されているので、次に入った時に続きから始められ
るのです」
マエラは一つ賢くなった。
「では、教官なら足裏ダンジョンを攻略できるのでは?」
マエラは当然の疑問をジルベスタにした。
「できますね。ですが、私には私のやるべきことがあります。私のスキルを有効に
使う方が、より同盟のためにもなります。レベルが高いからといっても力業では宝
箱も見つけられませんし、私はダンジョン攻略に興味がありません。マエラさんの
スキルはダンジョン攻略に特化していますし、情熱のある方に任せるのが道理とい
うものです」
「そうですね、仰る通りです。今も、その教官の大切な時間を割いて、私のレベル
上げにご協力頂いているのですよね」
「はい、時間は有限です。二日で終わらせますので、頑張りましょうね。では、こ
れを着けて下さい」
ジルベスタはマエラに仮面を手渡した。
「…これは?」
「狐のお面ですね、視界は塞いであります。これから場所を移動するので、その方
法や場所を知られないようにするためです。少しの間我慢して下さい」
「…わかりました」
まさか自分が何かを被る事になるとは思ってなかったが、馬面ではない事にホッ
としたマエラ。あれは恥ずかしい。しかも、ジルベスタが良いことを言っていて
も、頭にしっかり入ってこないほど、意識を持っていかれる存在感である。
「ズダロンはマエラさんの誘導をお願いしますね」
ズダロンはジルベスタの指示に頷いた。ズダロンは、現れてからずっと声を発し
ていない。
「失礼ですが、ズダロンさんは声が…」
「我々の詮索はしないように、いいですね」
マエラが疑問を口にしようとしたが、ジルベスタがズダロンの頭に手を乗せて、
それを遮った。
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