019 ポメラやらかす 4

 獣人姉妹の捜索を頼むと言うことは、彼女達について知り得る限りの情報をポメ

ラに伝えるということ。そして、マーエン商会の秘密にも触れることになってしま

う。


「ニーシャちゃんとラライちゃんです。おそらく今は16歳と12歳になっていると

思います。調べればわかってしまうので全てお伝えしますが、先程仰っていたカシ

ンの町近くの集落にいました。技能の確認をしに教会に行った後、行方不明になっ

ています。ですが、インフォメーションセンター内で流れていた映像に一瞬だけ

映っていました。あと、なぜカシンの村を知っているかは聞かないでもらえると嬉

しいです」


 しかし、隧道の存在だけは隠さなければならない。マエラは詮索されることを覚

悟したが、


「そうでしたか、なぜマエラさんがカーネラリアン聖王国にいた獣人のことを知っ

ているのかは気になりますが…リビール商会に入った動機は理解しました。やはり

思った通りです、マエラさんは他人のために行動を起こせる、とても勇気のある人

です」


 ポメラはマエラを追及しなかった。


「いえ、悔恨を少しでも軽くしたいだけの卑しい人間です」


 ポメラはマエラの行動を称賛するが、マエラはそれを否定した。


「そんなことはないですよ。優しい人ほど、自分を卑下するものです。他人に手を

差し伸べることができない人は、自分が駄目だと思う気持ちすらないのですから」


 ポメラはマエラの手を取ろうとするが、マエラは自分の手を引っ込める。


 自殺まで追い込まれた相手に言われても、心に響かない。


 ポメラ、ショックで固まった。


 ~~~~~


 少々気まずい雰囲気が漂う。


「そういえば、ダンジョンで得られるのは魔石だけではありません。ダンジョンを

潰すことで経済が壊れます、そうすれば罪のない人間…あの国にそんな人間がいる

か怪しいですが…人間への影響に留まらず、獣人がその煽りを受けてしまいます」


 マエラはその空気を変えるべく、商人の視点からダンジョンを潰すことの危険性

を説くが、


「ほへ?なんですか?ああ…ダンジョンが無くなることの影響ですか?あぁ、それ

についてはご心配なく、ちゃんと対策は考えてありますので」


 もしダンジョンが無くなった場合の対応策が既にあるようだが、ポメラは先ほど

の衝撃のせいで、話なんてどうでも良くなっている。


「それは、獣人を保護するという計画ですか?確かにリビール商会なら可能かもし

れませんが、教会に縛られることと同義ではないでしょうか?」


 マエラからしてみたら、現状よりも悪化するのではという懸念がある。


「教会とは関わりませんよ。計画段階であり、情報の共有は極力少人数にしたいの

で、今は話せませんが」


 マエラはまだポメラを完全に信用できないが、自分を騙すためにこのような行動

をとる意味もないため、一先ず提案に乗ることにした。


 その意味は、単にマエラに感動的な再会をさせてあげたいという、しょうもない

理由だったりするのだが、そんなことわかるはずもない。


「そういえばダンジョンは国が管理していると思うのですが、私がカーネラリアン

聖王国のダンジョンに入れるのですか?」


 ダンジョンを管理しているのは国で、中に入るにはその国の許可が必要になる。

大事な資源でもあるダンジョンに、他国、しかもメッキラ独立国の国民であるマエ

ラが許可を貰えるはずもない。そもそも不法入国が発覚した時点で拘束されてしま

う。


「そこは抜かなく対策を用意しています。マエラさんには、この指輪をお貸ししま

す!」


 マエラはポメラから指輪を渡された。


「これは何ですか?」


「これはですね~、なんと!姿を消すことが出来る指輪です!我ら反教会同盟の技

術の粋を集めて開発したものです!これを使って、ダンジョンに入って下さい!」


 ポメラは誇らしく言った。


「へ、へ~すごいですね!」

 マエラの反応が悪い。


「あれ?あまり驚いていません?類を見ない魔道具だと私達も自負していたのです

が」


「そんなことないです!驚きすぎて、どう反応していいかわからなくなっていただ

けです!」


 実はマエラ、全く同じ効果の指輪を持っていた。


 非力で戦闘力皆無のマエラが、魔物が跋扈する森をどのように越えてカシンの村

まで辿り着けていたのか。冷静に考えればおかしいのである。


 その理由。

 マエラの一族では、秘密の隧道を教えられるのと同時に、もう一つ受け継がれて

来た物がある。


 それが、姿を消す指輪。


 隧道と一緒に見つけたと伝わっているが真偽は不明だ。もちろん作者もわかるは

ずはない。ポメラから渡された物とは由来が違うのは確かであるが。


 だが、あの指輪の存在は秘密にしなければならない。いくらポメラが志を同じに

する者とはいえ、あの指輪はマーエン商会にとって、とても重要な物なのだ。


 マエラは口を噤んだ。


「要は見つからなければいいんです。ダンジョン内を監視することはできませんか

らね、入ったもの勝ちというやつです。悪を断罪するのです、敵の制度に従う必要

なんてありません、バレなきゃ犯罪じゃないんですから」


「……」


 常に誠実を心掛けて来たマエラには同意できない意見でもあるが、これは戦いな

のだ、甘い事は言っていられない。不正を働く商売相手と同じと思い、割り切るこ

とにした。


「その他にも、ダンジョン攻略に必要な道具をお渡ししますので、後程使い方をお

教えします。あと、ダンジョンを攻略も勤務時間に入りますから、なんなら一日中

ずっとダンジョンに入っていても構いませんよ」


 ポメラは、「では一旦休憩にしましょう」と言いかけたが、


「肝心な事を忘れていました!山脈は自力で越えてもらうことになります。レベル

10なら簡単だと思いますけど」


 と、ダンジョンまでの移動手段について申し訳なさそうに言った。


「あ…はい…がんばります…」


 マエラは、乾いた声で答えたのであった。


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お読み頂きありがとうございます。

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