013 女商人の適正 3
「では気を取り直して、あの壁にあるディスプレイのことはわかりますね?」
マエラは頷く。
「そのディスプレイをステータスウィンドウという言葉に言い換えます」
ポメラは白い板(ホワイトボードというらしい)に文字を書きながら説明し、「
ここまではいいですか?」と確認をとる。
「そのステータスウィンドウが自分の目の前に現れるように、ステータスオープン
と声に出して言って下さい。声に出すのが恥ずかしければ、心の中で思うだけでも
いいですよ」
マエラは戸惑いつつも、ニコニコと微笑んでいるポメラから無言の圧力を感じ、
「ステータスオープン」と言葉に出して言った。
すると目の前に、宙に浮かぶ透明な板が現れた。
マエラはびくっと、後ろに仰け反る。
「ふふ、驚きますよねー」
ポメラは、いたずらが成功した子供のような笑顔だ。
マエラは"こほん"と咳払いをして、居住まいを正す。
「スキルが他人に知られるのが嫌でしたら無理に聞きませんが、意味不明なスキル
も多いので、こちらから正しい使い方を教えることもできます。どうしますか?ち
なみに、殆どの方が見せることを選択していますね」
マエラは自分の目の前に現れたウィンドウのスキル欄を見る。文字は読めるが、
その言葉の意味はわからない。教会側に自分の能力が知られてしまうが、仕方がな
い。自分のスキルの詳細がわかれば、強力な対抗手段が一つ増えるかもしれないの
だ。そう結論を出し、
「大丈夫です、ご教授頂けたら嬉しいです。そちらに移動すればいいでしょう
か?」
ステータスウィンドウをポメラに見てもらうためにそう言った。
「実はステータスウィンドウは本人にしか見えないんですよ。ウィンドウの上部
に”公開/秘匿”という箇所があるので、そこを押して下さい」
【ステータスを一時的に他人が閲覧可能な状態にしますか? YES / NO】
「と表示されますので、”YES”を押してください。ちなみに、今での作業は頭の中
で思っても大丈夫ですよ」
マエラが言われた通り操作すると、
「ありがとうございます、見えるようになりました。あら、これは珍しいスキルで
すね、持っている人は中々いませんよ」
と、ポメラがマエラの後ろに来て言った。
マエラのステータスウィンドウは以下の通りであった。
------------------------------------------------------------------------------
名前:マエラ
年齢:21
種族:人間
身分:リビール商会 従業員
レベル:1
スキル:トレジャーハンター
特性:
能力:
------------------------------------------------------------------------------
「トレジャーハンターというスキルが何なのかわかるのですか?」
「もちろんです、当商会には知識が蓄積されていますから。不明でも調査して必ず
お教え出来ます」
やはり、教会はスキルについての情報を秘匿していたのだと、マエラは何度目か
わからない憤りを覚える。
マーカが濃い敵対に変化する。
ポメラはそんなマエラを微笑ましく見ながら、内容をホワイトボードに書きつつ
説明を始める。
それを要約すると、以下のようになった。
------------------------------------------------------------------------------
・スキルは初めてスキルを確認したときに与えられる
・スキルはそれまでの人生で慣れ親しんだものや、強い願望が反映されやすい
・逆に普通の生活をしていたり強い思いがない場合は、一般的な誰でも持ってい
るスキルが現れる。例えば戦士とか事務
・各分野で役に立つため、一般的なスキルが悪い訳ではない。むしろ一般的なス
キルを持っている方が大多数
・自分でも予期しないスキルが現れたりする。マエラの様に商人をやっていて
も、商人や事務関係のスキルが発現すると限らない
・逆に珍しいスキルは使い所が限られる場合がある。ただ、用途によっては莫大
な利益や影響を齎す
------------------------------------------------------------------------------
「まさにマエラさんのスキルがそれにあてはまりますね」
と、説明を締め括った。
一方マエラは、
教会で十歳という幼い頃にスキルの確認をするのは、強い願望や知識、人生経験
が乏しい段階で確認させることで、教会に不利益を齎すスキルの発現を抑える狙い
があるのだと思い至る。
そして、厳しい環境に置かれている獣人は、生き残るために自分の願望が強い者
が多くいるため稀有なスキルが出やすい傾向にあり、教会によって管理、酷い場合
は処分されているのであろう。
また、敵対マーカが強い赤になる。
ポメラはそれを確認して、計画通りに進んでいることに安堵する。
「そして肝心のトレジャーハンターというスキルは、様々な場所に隠された財宝を
探し出す事ができるスキルです。マエラさん、遺跡や洞窟を探検して宝探しをした
いと夢見ていますね!」
「!!」
マエラは、自分の心の奥底に仕舞い込んでいた願望を言い当てられて激しく動揺
した。そして一気に顔が赤くなってきた。
大人になってまで、いつか冒険して財宝を発見したいなどと、子供じみた願望を
持っていることが、他人にバレてしまったのだ。
ある意味、成長してスキルを確認することは残酷である…と言いたいが、実はポ
メラはスキルの説明をした際に、マエラに欺瞞情報を与えていた。
スキルはスキルを初めて確認したときに与えられると説明したが、実際にはスキ
ルは十歳になると自動的に与えられるのだ。マエラの教会に対する悪感情を増幅さ
せるのが目的だったのだが、結果的にマエラの羞恥心も増幅させてしまったので
あった。
「恥ずかしがらなくてもいいんですよ、自分の夢をずっと持ち続けることは、とて
も難しいことですから。スキルになって現れるくらい強い気持ちを私は馬鹿にした
りしません。夢への第一歩を踏み出しましょう!しかも強力なスキル付きで!」
ポメラはマエラの目を見てそう言った。
「…ありがとうございます」
真っ赤になったマエラは、なんとか返事をした。
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お読み頂きありがとうございます。
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