第11話 日曜日

日曜日。


逸香が目覚めると時計は11時を回っていた。


「昨日なかなか寝付けなかったからなぁ…」


知り合って初めて電話がなかった夜。逸香は心の中で公斗の存在が大きくなっていることを実感していた。たぶん人に言ったら笑われるだろう。


そんな間違い電話で知り合った人なんて…


気まぐれで付き合ってくれてるだけ


単なる暇つぶし


遊ばれて終わるよ


そんな周りの声が聞こえる気がした。演奏会は感動だったし、知らない世界を見られたし、いい経験だった。でも、変に日課のようになっていた公斗との電話がなかったのは寂しかったし、少しリズムを狂わされたような気もしていた。


逸香が昼前に起きたことで、溜まっていた洗濯や部屋の掃除、食料品の買い物などであっという間に外が暗くなっていた。明日の語学の授業の予習もまだしてない。アルバイトを始めてから、肩こりと目の疲れでいつも何となく疲れが取れきれていない感じで、生活リズムがつかめていない。今日でちゃんと立て直しとかなきゃ!




一方、公斗は昼過ぎにようやく目覚めていた。ちょっと頭が痛い。二日酔いかな?カーテンを開けると祖母が庭の手入れをしていた。とりあえず顔を洗って身支度をする。こんな日にアルバイトを入れていたことを後悔しながら、庭にいた祖母と一言二言言葉を交わして門を出た。


公斗はアルバイトを掛け持ちしていて、家庭教師とデパ地下のお漬物屋さんの販売員をしていた。今日はデパ地下だ。デパートに着くころには、頭の痛みも少しラクになっていた。今後、飲み過ぎには気を付けようと毎回自分に言い聞かせている。成長しないな…。

バイト終わりに、出かけに祖母から頼まれた漬物を購入して帰る。漬物を渡しに行くと祖母は食事を作ってくれていた。漬物を頼まれた時は何となく一緒に食事するようになっていたからだ。祖母はアクティブな人で友達も多い。最近友達と日帰りバス旅行に行ってきた話や、京都駅前で大好きな俳優に偶然あった話など楽しそうに話してくれた。食事が終わる頃


「公斗はまだ彼女とかできないんか?」


予想外に祖母から問いかけられた。


「え、ばあちゃん、突然どうした?」


公斗は返事に困りながら、頭の中では逸香のことを思い浮かべていた。そして、そんな自分に戸惑っていたのだった。


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あの頃のふたり~逸香と公斗の物語~ さつき @satsuki32ki

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