第10話 留守番電話
「おつかれ~」
演奏会のあと公斗たちグリークラブの面々は京都に戻り、いわゆる打ち上げの真っ最中だった。演奏会の緊張から解き放たれるひととき。仲間と1つの曲を歌い上げた瞬間の達成感。そして語らうこの時間が公斗は好きだった。
たくさんの人が聴きに来てくれた。同じ学部の友人からの花束やお菓子のプレゼント。神戸にいる叔母も観に来てくれていた。ふと、逸香にも聴いて欲しかったな…と思う自分に公斗は少し戸惑った。
来るはずないか!
仲間と2次会3次会とハシゴして酔いも回った公斗はすっかり上機嫌で下宿に戻った。
公斗の下宿は三十三間堂にほど近い所にある母方の祖母の家の離れだ。一人暮らしの祖母を心配していた母に
「京都に進学するならおばあちゃんちの離れに住んであげて!」
と言われて住んでいる。本当は友人達の様に大学近くのマンションで一人暮らししたかったのだが、ここなら家賃もかからないし、親も祖母も安心だろう。敷地内に祖母の住む母屋があるが、祖母から干渉されることもなく、たまに一緒にご飯を食べることがあるくらいだ。
部屋に戻って明かりをつけ、留守番電話に目をやる。留守番電話がチカチカ光っていた。再生ボタンを押すと
「公斗〜お疲れ。今日、神戸の叔母さんが演奏会来てくれてたでしょ。電話もらったのよ。いい演奏会だったって。また、お礼言っといてね。じゃあまたね。」
母からだ。本当は演奏会に来たそうだったけど、パートが休めないって言ってたな。
留守録は1件で終わりだった。
「逸香ちゃん、かけてきてないみたいだな」
留守電に逸香からのメッセージを期待していた公斗だったが、酔いも手伝ってそのままベッドに潜り込み眠りについた。
逸香が観に来たことも、公斗のことを想って、なかなか眠りにつけずにいることも知らずに…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます