第4話 間違い電話
「何度も間違えちゃってすみません。」
「学生さんですか?僕も学生なのでバイト探しに苦戦したことあります。お気持ち分かりますよ」
「一応学生です。春に京都に出てきたばっかりで…
」
「そうなんですね。僕も地方から2年前に出てきたんですよ。もう慣れましたか?」
「最初はワクワクしてたんですけど、ゴールデンウィークに帰省して戻ってきたらちょっと寂しくなっちゃって…あ、今は友達に電話しようとしてて、すみません、なんでだろ?間違えちゃって…」
あれ?私、何言ってるの?知らない人だよ~!やめなよ~。心の声と裏腹に逸香の口からどんどん言葉が飛び出してくる。制止しようとする自分と知らない人だし、こっちが誰だか分かんないし、まあいいや!と思う自分がいた。
まだナンバーディスプレーもない時代。こちらが誰だか分かるはずもない。一人暮らしの寂しさと何となく感じた安心感のような不思議な感覚。いつの間にか逸香はこの間違い電話の相手、公斗と話し込んでいた。
話しているうちに、相手が逸香より3つ年上で一浪してるから今年大学3回生であることが分かった。公斗は、間違い電話をかけてきた逸香が、地元の女子大に通っているおっちょこちょいな妹に重なって、つい励ましたくなって応対してしまったらしい。
あれこれ話しているうちに気付けば小一時間が経っていた。
「すみません、何だか私ベラベラ喋っちゃって、ご迷惑でしたよね。」
「そんなことないよ。楽しかったよ。バイト頑張って!!」
「ありがとうございます。頑張ります!!」
受話器を戻そうとするが、何となく切りづらい。と言うかこのまま切るのが寂しい。逸香が迷っていると
「よかったらまた話そ」
公斗の方から提案してくれた。
「いいんですか?ご迷惑じゃ?」
「大丈夫じゃない時は出ないから大丈夫だよ…あれ?何か変だった?」
そう言いながら受話器の向こうで公斗が笑っている。逸香もクスッと笑った。そして、公斗は自分の電話番号を教えてくれた。メモしながらよく見ると翔が書いてくれた電話番号の末尾の「3」が、雑すぎて逸香は「8」だと思い込んでかけていたことに気付いた。
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