第3話 繋がりの予感
次の日、逸香は新しいバイト先候補の医学系の研究所に向かった。
今まで何となくホテルのフロント係に憧れていた逸香は、とりあえず小さめのビジネスホテルに狙いを定めバイトに応募していたのだが、バイトとは言え、この時代でも多少の英語力が求められ、自信なさげに見えたのか毎回撃沈していたのだ。
とりあえず少しはお小遣いも欲しい。
親からの仕送りで生活はできるが贅沢は出来ない。目指していた国公立大学の受験に失敗し、学費のかかる私立に進学させてもらったから、これ以上負担はかけたくない。
そんなことを考えていたら、目的の医学系の研究所に着いた。ここではどうやら研究データの入力が出来る人を探しているらしい。この時代、パソコンは一般家庭にはあまりなく、もちろん逸香も触ったこともなかった。そんな自分が雇われる訳がない、と思いながら、でも、きっとタイピングが出来れば就職する時に役立つのかも?と思ってダメ元で応募してみたのだ。
「実はパソコンは触ったこともないのですが、これからそういう時代になると思うので、一生懸命覚えて頑張りたいです!」
面接してくれた中田係長は、
「出来ないから無理だとか諦めるのでなくて、覚えて頑張りたいと言う君の熱意を信じるよ。そもそも誰でも初めは初心者なんだからね。」
そう言ってド素人の逸香を気持ちよく雇ってくれたのだ。
「ありがとうございます!頑張ります」
月火木金の夕方5時から9時まで、時給600円。当時の時給では安い方だったが、パソコンに慣れたり出来そうだし、それに医学系の研究所って何となくカッコいい。
その日は研究所内を案内してくれて、明日から使うパソコンやロッカーも教えてくれた。逸香はバイトが決まったウキウキと、ザ・オフィス的なところで働けることにすっかり舞い上がっていた。
「ねえねえ、聞いてよ~、バイト決まったんだよ~医学系の研究所だよ、すごくない?ねぇ、聞いてる?お祝いしてよ~!」
「…………………」
「ねえってばぁ~」
「あ、あのぉ~、こないだの方ですよね。またおかけ間違えじゃないですか?」
一瞬身体が固まった。
え、翔じゃない!なんで?心の声がした。
「え、あ、、、すみません、」
「いえ、大丈夫ですよ。バイト決まったんですね。よかったですね。おめでとう♪きっとあなたがお伝えしたかった方も喜んでくれますよ。」
見ず知らずの誰かからの突然の祝福。
間違い電話を迷惑がるわけでもなく応対してくれたこの人は…?
逸香は心が少しざわざわするのを感じていた。
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