第2話 初めまして
「初めまして…?」
あらためて顔を見合わせ、言葉に詰まった。
駅の階段を昇っていた時の胸の高鳴りのような鼓動はもう消えていて、逸香は少し自分を取り戻していた。
目の前で微笑んでいる公斗は、想像していた感じとは違ったけど、優しく包み込むような眼差しが逸香をホッとさせた。
「何かごめんね。」
「え、何で謝るの?」
「え、何かもしかして違ったのかなって…」
「そんなことないよ、逸香ちゃんは僕が思ってた通り。逆に僕の方が心配だよ。」
そう言いながら窓の外に目をやる公斗。そんな公斗を見つめながら、逸香は斜め45度から見る公斗をちょっと素敵だなって思っている自分に気が付いた。
「何だか不思議な縁だよね」
「ホントに…」
2人の出会いは偶然だった。
今から37年前、1987年5月のある日。
逸香は高校時代の同級生で、仲良しグループの1人だった翔に電話をかけた。
逸香と翔は進学で共に四国から京都に出てきていたのだ。なかなかバイトが決まらない愚痴を言えそうなのは、気心の知れた翔しか身近にいない。
「ねぇ、聞いてよ、またバイト落ちたんだよ~、すぐにでも来て欲しそうな雰囲気で面接してくれたのにひどいよね~」
「…………」
「ねぇ、聞いてくれてる❔何とか言ってよ~」
「…あ、あのぉ…どちらにおかけでしょうか?」
困惑したようなでも少し落ち着きのある低音の渋い声。逸香はハッと我に返った。
「え、あ、え、?、私、かけ間違えたかも。すみません、あの、ごめんなさい。」
とりあえず大慌てで謝って電話を切る。顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。
スマホも携帯もない時代。
逸香の下宿の電話機は当時最新の留守番機能付きのプッシュホンだった。一人暮らしで自分用の電話が持てるのが嬉しくて、母におねだりして買ってもらったものだった。
押し間違えたのかな?
ちゃんと翔の電話番号は確認したはず。
かけ直して翔に愚痴を聞いてもらう気分じゃなくなった逸香はその日はそのまま眠ることにした。
この出来事が逸香の運命を変えることになるなんて知りもしないで…
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