第3話 無能な魔法使い

 魔法の先生も牧師さんがやっている。なんでも、牧師さんは帝都の警備隊だったのだそうだ。牧師さんの<特別生活魔法>適性は身体強化魔法。その身のこなしは退職して牧師となったいまでも健在らしい。


 魔法の授業では杖を使った下級の基本魔法を教えてくれた。<一般五大元素魔法>の中でも下級の魔法は<一般生活魔法>とも呼ばれていて、僕が前使ったファイアボール下級近距離火魔法もそのうちの一つだ。


 みんなはじめは一番簡単でそして一番使う火属性の魔法を練習した。僕はもちろん使えるので他の属性の魔法の練習をしている。


 火属性の次に簡単なのは水属性らしい。水属性もイメージがしやすくて火属性の次に使い手が多い。確かに水属性の水を出現させるイメージは難しかった。


 水がどこからやってくるのかを考えないと魔力で具現化できない。あれこれ試行錯誤した結果、火属性の考え方も使って空気中の水蒸気から水を出現させるとイメージした。


 そして、そのイメージを助けるために、


アクアスプラッシュ下級近距離水魔法! 」


 と唱えることで水魔法を使えるようになった。約二週間で水魔法を習得することができた。


 こうやって使える魔法が増えていくことによって、無視していた子たちもなんだか少し話してくれるようになった。でも、中には


「おい、無能。そんな下級魔法練習してどうするんだよ。ご自分の<特別生活魔法>でも練習してみたらどうですか? はははははは! 」


 などとバカにしてくる人も多くなった。でも、僕は結構慣れてきたので、そんなのは全く気にすることもなかった。でも、たくさんの暴言は確実に僕の心を蝕んでいった。 


 だから家に引きこもってずっと魔法書を読んでることも多くなり、教会に行っても魔法以外の授業はほとんど受けなかった。


 そんな魔法漬けの生活を三年間続け、いつの間にか僕は十三歳になっていた。ほ村にある魔法書は全部読み終わって、魔法も火属性、水属性は中級。他の三つの一般五大魔法は下級がつかえるようになっていた。


 なんだか牧師さんによるとここまでの魔法を使えるのはこの村での快挙らしく、みんな僕の<特別生活魔法>の適正のことを忘れていた。


「なんだ。こんなことなら<特別生活魔法>なんていらないじゃん」


 そう思っていた。でも、現実はそんなに甘くなく、今の社会は<特別生活魔法>で職業が決まることが殆どらしく、僕はこのまま村にいても仕方のない人間だった。


 みんなたいてい身体強化魔法を使っていて、身体強化を使えない僕には力仕事は無理だった。治癒師にも何ににも村の役に立つものにはなれない。そうわかった瞬間、僕の眼の前は真っ暗になった。


 仕事をしていないと生きている意味がない。何もできないとみんなから軽蔑される。僕ができるようなことは村には何にもなかった。


 なんにもすることがないまま魔法書を村の外からやって来る行商人から仕入れて、家に引きこもる。そんな生活が続いた。


 もちろん、なんの役にも経っていない。その頃リンは治癒師になるために村の外にある治癒魔法適性の人のための学校に通っていて、ロンは身体強化魔法を使いながら村の人から農作業を習っていた。


 他の人達もそう。みんな自分の役割があって、みんな生き生きと働いている。僕はお父さんお母さんにご飯をもらうだけもらって、何もしていない自分にどんどん腹が立ってきた。


「このまま生きていてもいいのかな・・・・・・」


 創造魔法の文献も調べた。そしていろいろな能力も試してみた。でも、割れたお皿や道具を直す以外に何もできなかった。


「お皿の前の状態をイメージして・・・・・・」


 魔力をお皿の砕けた破片に向かって注ぎ込む。するとカタカタと破片が浮かび上がってくっついた。それだけで半日動けなかった。


 でも、お皿は陶器なのでそこまで価値は高くなく、別に買ったほうが効率が良かった。他の鍬とかの道具もそうだ。


 僕は家にいることももどかしくなり、教会でずっと魔法書を読んで過ごしていた。


 ある日、また同じように教会で魔法書を読んでいると牧師さんが僕のもとにやってきた。


「やあ、アルスくん。調子はどうだい? 」

「可もなく不可もなくってところ」

「あのさ」


 牧師さんはもったいぶった感じで話しかけてきた。


「帝都の魔法学園に行ってみないか? 」


「はい? 」

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