第5話
エリは半透明な水の入ったグラスを手にし、手渡してきた。何が入っているのか分からず、グラスを口元に近づけてみるが、匂いもしなかった。ただの水だろうか。エリは何も言ってこなかった。普通は「水」だとか「果汁ジュース」だとかグラスの中に入っているものを言うはずなのだが、エリは鈍感さを持っているように映った。
「ジュース?」
俺は彼女を傷つけないように聞いてみた。
「GPとなります」
「GPって?」
ロボットの世界では普通のことのように言われ、咄嗟に油を想像した。石油とかそういうエネルギーとなるものだ。ロボットが飲めるからと言って生身の人間が飲めるわけがない。グラスを口元から離し、呆然と眺めていると、エリは補足するように言っていた。
「栄養剤です」
「栄養剤って油とかじゃなくて?」
「ビタミンCやビタミンD、ストレスを感じたときに、不足されがちな栄養素です」
「なるほど」
俺はその液体を少し口に含んでみた。風味はないが、味はレモンに似ていた。グラスに入っているGPという栄養剤を飲み干すと、グラスを台の上に置いた。エリはそのグラスを手に取ると、奥に消えていった。再び現れると、彼女は俺の前で静止した。
「何をすればいいのかな」
俺は疑問に思っていたことを言う。
「命令をしてください」
「命令と言っても」
沈黙が流れる。彼女はただ立ったまま、俺と向かい合っていた。ロボットだから気まずいという感情はないかもしれないが、俺のほうはどこに視線を持っていけばいいのかわからず、自然と彼女の足元を見ていた。彼女の履いているものは黒くて、プラスチックでできているような材質だった。近未来的な靴にも思えたし、古い世代のものにも思えた。どうでもいいことを考えていると、脳裏に過ったのは他に生存者がいないのかというものだった。
「人を探してくれないか?」
「出撃しますか?」
「出撃?」
人を探す答えが、飛行船の出撃なのだろうか。会話が一つ飛んでいるが、少し間をおいて理解はできた。
「出撃をしてくれ」
「飛行船を操作してください」
「エリがやるんじゃないのか?」
「井上様に権限がございます」
どこかの大統領の秘書官のようなことを言う。俺はゲームのコントローラーを出現させ、出撃のコマンドを選択した。ぱっと部屋の中が明るくなった。外の光が中に入り込んでいるのだ。どこまでも広がる景色は、この世の終わりというよりも始まりを思わせた。遠くに飛行している物体を発見するが、それは明らかにドラゴンや、そういう類のモンスターだった。
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