第12話 死線の先
突如現れた暗幕の中で、
「藍果。藍果、大丈夫だ。目を開けて」
「弓丸、こ、れっ……!?」
灯火の光を水面のように受けながら、きらきらと
両手を広げ、
「これではっきりした。相手は
「か、
「そう。
弓丸が手首につけていた首飾りを取り、左に持ってパッと振った。紐から抜けたもう一つの玉は、赤色の羽をした矢へと姿を変える。そして紐の方は、長さ一メートルほどの弦を持つ武具——すなわち、弓丸の体格でギリギリ扱えるサイズの弓へと
「
「その矢で、あの男の人を殺すの?」
拾った髪紐を差し出し、私は弓丸の瞳をまっすぐに見つめて問いかけた。確かに、あの男は悪いことをした……と、思う。でも、頭の中にさっき聞いた彼の言葉が
——俺にも、大丈夫かって言ってくれ。
私は、あの男のことを忘れていた。いや、毎朝見てはいたのに、見ないふりをしていたのだ。
「私、昨日は倒すとか簡単に言っちゃったけどさ——あの人は、まだ人間だよ」
弓丸は髪紐を受け取らない。小さくため息をついて、そして……何を思ったか、おかしそうにクスッと笑った。
「本当に変わったやつだな。
「……それ、どういう」
「死なないよ」
弓丸は言う。私達を包んでいた轟音はすでにやみ、
「この矢は、あの男の命を奪わない。約束しよう」
縦長の
「……なら、一つ案があるの」
私がその作戦を耳打ちすると、弓丸は目を伏せて自分の
「確かに君の言う方法なら、知りたいことを聞いた上で確実に仕留められる。これ以上、君の友人が危険に
「ちなみに、聞いておきたいことっていうのは?」
「誰がお前の
「この策は上手くいくよ。理由は分からないけど、なぜかそんな気がするの。あとは、弓丸が許してくれるかどうか」
その言葉を聞いて、弓丸は私を見つめたまま大きく一度瞬きをし、かすかに息を呑んだ。暗幕の向こうからは、男がガシガシと石で殻を破る音が聞こえてくる。
「無理だと思うなら、断ってくれていい」
「分かった」
弓丸が、私の差し出した髪紐に手を伸ばす。
「藍果。生きるつもりで——死にに行け」
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