第9話 誘う洞穴、あるいは悪癖(佳境へ突入)
「ただ、その前に」
弓丸はおもむろに
「なっ、え……」
弓丸の柔らかくきめ細やかな肌に、玉のような血が浮かんで太刀の先へと移る。赤い
「それ、外して。下に置いていいから」
うろたえる
「こ、この
「そう。早く」
言われた通り、短刀から蔦の切れ端を取り外して石畳の上に置く。弓丸がその断面に血を垂らせば、蔦の切れ端は水を得た魚のように動き出す。
「うわっ、わっ、わ」
さながらトカゲの
「追うよ。その先に本体がいる」
***
昔あったらしいお堂の跡地。その岩陰に
「ここは……」
入口の上部には太い木の根が張っている。地面が掘り下げられていて、洞穴の高さは百四十センチほど。私が入るには
「ねぇ、弓丸……さん、ここに入る……」
どさっ。かちゃん。
子どもの体が、地に崩れ落ちたような音。それから、金属の
「弓丸……っ!」
弓丸は、腰が抜けたようにその場でへたり込み、きゅうっと
「ね、ねぇ弓丸、ゆっくり息……」
「か、ひゅ、わからない、な、なんで、こんっ……な」
弓丸が激しく
「……拒むんだ。この、体は……どういうわけか、ここに入ることを拒否している」
口元をぬぐって、弓丸は目の前の洞穴を
「……行こう。ここまで来たんだ、逃げられる前に打って出る」
「で、でも、体調悪いんじゃ……」
「大丈夫」
弓丸は、首元から首飾りを取り出した。どうやら、衣の下につけて隠していたらしい。赤と青、二種類の透き通った玉が紐に通されていて、弓丸は青い方の玉を引き抜いた。
「あの、何を」
「いいから見てて」
弓丸はそれを指に挟み、手品でもするように軽く手を振る。すると、その玉は一本の長い矢へと姿を変えた。矢羽は青く、先端には
「そ、それ……!」
「僕、神様だからね。こういう、ことも……できるわけ」
ばた、ばたた、と再び雨足が強まってきて、岩や草木に身を打っては砕け散る。その矢を両手で逆手に持ち、弓丸はゆっくりと息を吐き出した。矢を握る手が、かすかに震えている。
まさか!
私がその手を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます