第6話 瀬名のゆくえ
次の日、瀬名が失踪した。
「藍果先輩……っ」
歩道橋のすぐそばにある、小さな公園の屋根の下。そこのベンチに腰掛けて、
「やっぱり、見つかりませんでした」
「……っ、そっか……」
歩道橋から見えていた藤の白は、この大雨に散ってしまった。泥が染み込み、
瀬名は、一時間目が過ぎても登校してこなかった。朝、家を出た後に消息を絶ったらしく、先生たちも捜索にあたったが、今も変わらず
それから、アヤとも手分けして瀬名を探し始め、早くも一時間半だ。瀬名が通っている塾や、よく行っている本屋。私もその近辺を探してみたが、足取りはつかめないままだった。
「……先輩、一回諦めて帰りましょう。雨だって午後からもっとひどくなるみたいですし……学校からも外出は自粛するように言われてるんですから。私たちまで事故にあったりしたら手間が増えます」
「分かってる、分かってるけど……」
「藍果、アヤの言うとおりだ。ここは一旦引こう」
瀬名の失踪に、例の化け
「確かに、瀬名の失踪が誰かの害意によるものだったら、それは
私は、口を引き結んでアヤの顔を見上げた。アヤに弓丸は見えていない。雨風に乱れたショートカットの髪が、白い頬にはりついている。アヤはそれをうっとうしそうに指で払って、私から目をそらした。
「瀬名先輩と、ケンカでもしたんですか」
「……そういうわけじゃ」
「さては図星ですね。困りますよ、仲良くしといてくれないと」
アヤは、こんなときも冷静沈着だ。合理的に状況を判断して、私たちが取るべき行動を示してくれている。私なんかより、ずっと頼りがいがあって、しっかり者で。
「……アヤちゃん。こんなに雨もひどいのに、瀬名のこと、探すの手伝ってくれてありがとう」
「いえ、別に気にしないで」
「付き合わせちゃってごめん」
アヤは、いい子だ。悪口は言わないし、お願いした作業は快く引き受けてくれる。
けれど、最近気づいたことがある。アヤは、私たちと話しながら、いつも何か別のことを考えている。アヤの頭の片隅で、絶えず息をしている存在。部活が終われば一分一秒を惜しむように学校を飛び出す理由も、そこにあるような気がしていた。
「ほんとは、帰ってしたいことがあるんじゃない?」
「……藍果先輩」
なんだか、瀬名のことも私のことも、ぞんざいに扱われているようで。普段なら、何も気にしなかったと思う。けれど、今は。
「私、もう少し探してみる。アヤちゃんは、先に帰ってて」
「……分かりました」
そう言って、アヤはその傘を手前側に傾けた。激しく
不意に、雨が
あれほどひどく降りしきっていた雨粒が、今や一滴も落ちてこない。それなのに、相変わらず空は暗くて、じっとりと墨を吸ったような雲が垂れこめている。急な静寂が辺りを包み、張り詰めた糸のような高音が私の頭の中で響いた。
「あれ、雨……」
アヤはそう
土砂崩れのような
「こいつか!」
弓丸が叫び、流れるような動作で腰の
「ア、ヤちゃ……っ」
呼びかけようにも声がかすれる。アヤは
「せ、せんぱ……」
大量の蔦が
ほんの一瞬の出来事だった。
次の更新予定
2024年10月15日 20:00 毎日 20:00
神に触れしは鎖の少女 戸浦みなも @toura_minamo
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