03.僕の前世はスイーツ男子
……――――僕は前世の記憶を思い出した。
前世はお菓子作りが趣味のスイーツ男子で普通の大学生だった。
平和な時代の日本で生き、平穏な日常生活を送っていた。
講義が終わり帰り支度をしていると、友人に呼び止められる。
彼は何故かパンッと手を叩いて僕を拝んでくる。
「お願い!」
「断る」
「うぇっ! 即断、早くない!? まだ何も言ってないって!!」
「僕にはこれから大事な用事があって、とても急いでいるんだ」
「えぇー、どうせ、あのはまってるゲームのイベントとか何かでしょう?」
「残念、不正解。――なんと今日は新作スイーツの販売日!」
「そっちかー」
そう、僕は何を隠そう、スイーツを『食べる』のも『作る』のも大好きな、スイーツ男子だ。
新作のスイーツや期間限定のスイーツなどが出れば飛びつかずにはいられない。
今日はなにがなんでも、人気スイーツショップへと向かい、新作スイーツを購入しなければならないミッションがあるのだ。
僕がいそいそと帰り支度を整えていると、彼が
「せ、せめて話だけでも聞いて! ね? ね?」
「どうせ、レポート手伝って欲しいとか言うんでしょう?」
「大正解◎」
「だが断る」
僕はスイーツの為にニッコリ笑顔で即行断り、いそいそと帰り支度を整え終える。
そんな僕を恨めしそうに見つめ、彼は芝居がかったお決まりの台詞で
「もう! 私とスイーツどっちが大事なのよ!?」
「もちろん、スイーツに決まってる・だ・ろ・♡」
「……うん、知ってた。……しくしくしくしく」
「知ってるじゃん。コ・イ・ツ~・♡」
僕がそう言いながら彼のおでこをツンと指先で小突いてやると、彼はしおしおになりながら机に撃沈していく。
机に崩れ伏して泣く彼の頭に、僕は紙束をぺちっと
「ほれ、レポートの資料」
「!!?」
「資料纏めておいたから参考くらいにはなると思うよ」
「ふわぁ~! こぉ~のツンデレ~!! デレが甘々あっま~い♡ やっぱり、持つべきものは甘々スイートな親友だよな~♡」
彼は表情をパアッと明るくすると、渡した紙束に頬擦りして喜んでいる。
彼が資料をパラパラ捲り見ると、プルプルと震え出して、感激したのか僕に抱き付こうとしてくるので
更にキスしてこようとする彼の顔面を
「俺を理解してくれるのはお前だけだ~! マイスイートハート~、大ちゅき~、ちゅっちゅっ♡」
「やめいっ! 僕には待っている愛しのスイーツがいるのだ! 君になんぞかまってられん!! 今行くからね、愛しのスイーツ~♡」
「このツンデレめ~! お前が甘々なデレなの俺もう理解してるんだからな~!!」
じゃれて上機嫌な彼に手を振られ見送られながら、僕は愛しのスイーツを求めてその場を後にした。
◆
先程の彼の反応から、用意した資料が彼の役に立ちそうで良かったと、僕は一安心して胸を撫で下ろした。
(頑張ってる奴は応援してやらないとな)
普段はひょうきんでおちゃらけている彼だが、実は色々と事情があり、大学に通いながら複数の仕事を掛け持ちする多忙な日々を送っている。
僕は頼まれていたわけではなく、応援したい気持ちから彼用に資料を纏めていたのだ。
彼は地頭も要領も悪くないので、纏まった資料さえ渡しておけば問題ないだろう。
(てか、デレが甘々って何? 毎回、甘やかしてるつもりないのに、甘いって言われるの何でだよ)
僕は彼に対してだけではなく、他の友人に対しても分け隔てなく同様に接している。
なのに、友人達には何故か僕の言動が甘々で色々と勘違いしそうになるとか、女だったら絶対に嫁にする甘さだとか、よく分からない事を言われるのだ。
何かと甘々と言われてしまうが、僕は甘やかしているつもりなど
(よく分からん。……まぁ、いいか。甘いもの好きだし!)
友人達曰く、僕は甘々思考回路で、頭の中までスイーツが詰まっているとよく
たしかに、自他共に認める大の甘党なので、僕は頭の中はスイーツでいっぱい。無論、異論は無い。
甘いものは幸せな気持ちにしてくれるのだから、間違いなく正義!
ノー・スイーツ、ノー・ライフ! スイーツ・イズ・マイ・ラブ!!
僕はこれから、そんな愛しのスイーツをお迎えに向かうのだ。
(待っててね、新作スイーツ♡)
期待に胸を膨らませ、僕は人気スイーツショップへと先を急ぐのだった。
◆
結論から言うと、待望のスイーツが購入できて、僕は幸福絶頂である。
目的の人気スイーツショップへと到着した時には、予想していたとはいえ長蛇の列を見て、僕の順番まで新作スイーツが残っているだろうかと、不安と焦燥感に駆られハラハラしてしまった。
だが、僕は無事に目的の『新作スイーツ』を購入する事ができたのだ。
それだけではない! 他にも、『日替スイーツ』『個数限定スイーツ』『期間限定スイーツ』『幻のスイーツ』まで購入できてしまった!
スイーツの補充と入替が重なり、奇跡的に最高のタイミングになったのだ!!
僕の順番で、まさかの『幻のスイーツ』最後の一個が残っていた時には、あやうく
本当に幸せすぎてどうしようという心境で、一生分の運を使い切ったような気すらする。
このスイーツ達は一体どんな味わいだろうかと思いを巡らせながら、僕はルンルン気分で鼻歌を歌ってしまう。
スイーツ達を宝物並みに大事に抱えて、うっかりスキップしてしまわないよう気を付け、僕は
――まさか、本当に運を使い果たしていただなんて、この時の僕は知る由もなかった。――
◆
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