第22話 初めてのレベルアップ
ダンジョンの中は相変わらず冷たい空気が漂っていて、僕の肌にビリビリと感じられる。
こんな場所に足を踏み入れるなんて、最初は怖くて仕方なかったけど、こうして少しずつでも前に進んでいるんだって思うと、不思議と気持ちも落ち着いてくるんだ。
先行するG型が映像を送りながら、僕たちの道を案内してくれている。
マリもサポートしながら、静かに先頭を歩いている。
ここで、洋介が僕たちにささやくように指示を出してきた。
「気をつけるですぞ、次の角を曲がるとスライムが2体、そして少し進んだ先にダークウルフが一体、待ち伏せしているようですな」
洋介の緊張が伝わってきて、僕も思わず固唾を飲み込んだ。
まだ一層目だからと油断してはいけない。
冷たい汗が背中を流れていくのを感じながら、目の前の道に集中した。
拓也も、低く慎重な声で言う。
「まずスライムを片付けて、それからダークウルフにはマリをぶつけるのが得策だろう。俺たちはできるだけマリをサポートする形で行動するのだ」
僕は大きくうなずいた。これが僕たちの、リベンジの挑戦だ。
初めてのダンジョン攻略では失敗したが、今回は絶対に成功させてやる。
自分が、今まさにダンジョンを目の前にしているという現実に、興奮と緊張が交互に湧き上がってくる。
気づくと手汗で武器が少し滑っているのがわかる。
僕たちは、深呼吸してから静かに手を合わせた。
そして、一気にスライムが待ち受ける部屋へと踏み込んだ。
部屋の奥に、青白い体をしたスライムがぬらぬらと動いていた。
スライムがこっちに気づいて、ゆっくりと姿を膨らませながら、こちらに近づいてくる。
「うおっ、来たぞ!」
僕は、武器を振り上げてスライムに一撃を加えた。
ぶにゅっとした感触が手に伝わってきて、武器が少し跳ね返される。
けど、スライムがよろけて体が崩れ始めてる。
「もう少しだ、続けて!」
洋介が、スライムに向かって小さなナイフを投げつけた。
それがスライムの体に突き刺さり、スライムが震えるように縮んでいく。
やがて、スライムは完全に溶けて、跡に小さな宝石が転がっているのが見えた。
「やった!これがスライムからのドロップアイテムってやつか…」
僕は、宝石を拾い上げた。
胸が高鳴る。
「よし、次はダークウルフだな。マリ、準備はいいか?」
拓也が指示を出すと、マリが無言でうなずき、すっと身を低く構えた。
まるで獣そのものだ。マリがどこか凄みを感じさせるその姿に、僕は一瞬見とれてしまう。
「僕たちは後ろからサポートするぞ。マリが攻撃しやすいように動こう。」
僕は気を引き締めながら、ゆっくりと部屋の奥へ進んだ。
一度、僕達3人はダークウルフに怪我を負わされた過去がある、怖気づく心を抑えながら進む。
奥には鋭い牙をむき出しにしたダークウルフが潜んでいて、その獲物を狙うような目つきに一瞬、息が詰まる。
灰色の毛並みが、不気味に光を反射している。
マリが突撃すると同時に、ダークウルフも僕たちに向かって飛びかかってきた。
マリの腕が素早く動き、ダークウルフに一撃を見舞ったが、しぶといウルフは逆に反撃して爪を立ててくる。
「マリ、大丈夫か!?」
思わず僕が叫ぶと、マリは一瞬こっちを振り返り、すぐに再びウルフに集中した。
彼女はタイミングを見計らい、ダークウルフの喉元に鋭い一撃を放った。
その瞬間、ダークウルフがうめき声をあげ、地面に崩れ落ちた。
その瞬間、視界がかすかに揺れて、体が光に包まれる感覚が俺を襲った。
何かが胸の奥でざわついて、体が少しずつ軽くなるのが分かる。
だけど、それが何なのかまでは分からなかった。
「健太、それってもしかして…」
洋介が驚いた顔で俺を見ている。
その視線の先には、僕の体を覆うかすかな光が揺れていた。
「これが…レベルアップ?」
僕がそう呟くと、拓也と洋介も体を光らせて、三人同時にレベルアップを感じ取っているみたいだった。
これで、僕たちも一歩強くなれたってことだろうか?
「僕たち、やっと少しだけ成長できたのかもな…ぐふふ」
僕は思わず拳を握りしめ、興奮と感動が湧き上がってくるのを感じた。
「次はさらに上を目指せる。少しずつだけど、橘さんたちに近づけるんじゃないかって気がするよ…」
僕たちは、次の挑戦に向けて、また一歩進んでいこうと心に決めたんだ。
そして、僕たちはついにレベル4に到達した。
1ヶ月間、ほぼ毎日ダンジョンに通って、少しずつ戦い方にも慣れてきた。
汗をぬぐいながら、公園のベンチで話し合っていたけど、頭の中には次の階層のことばかりが浮かんでいた。
「ぐふふ、俺たちもやっとレベル4まで来たな。次は、いよいよ第二層か…?」
僕がそう言うと、洋介がちょっと考え込んでから答えた。
「第二層に行くべきか、慎重に判断する必要がありますな。次の層には、これまで以上に厄介な魔物が潜んでいる可能性が高いですぞ」
彼は真面目な顔をして言う。
確かに、次に進むのは少し不安でもあるけど、ワクワクする気持ちが勝っていた。
「その通りだ。第一層だけを繰り返しても、もうこれ以上の成長は見込めないだろう。次に進むのは当然だろうな。」
拓也も冷静な博士みたいな口調でそう言った。
僕はうなずきながら
「でも、ちゃんと準備しないと、第二層で帰ってこれなくなるかもしれない」
と不安げに呟いた。
僕たちは全員で取引所に向かうことにした。
第一層で手に入れたスライムの宝石やダークウルフの爪を売って、少しでもいい装備を揃えようってことだ。
数日後、僕たちはダンジョンでの戦利品を持って、再び取引所を訪れていた。
ダンジョンの第一層で集めたスライムの宝石やダークウルフの爪を売って、次の階層に向けた装備を揃えるためだ。
広い取引所には様々な武器や防具が並んでいて、僕たちは興奮しながらショーケースを見て回っていた。
そのとき、洋介がふと立ち止まり、ショーケースの中の一つを指さした。
「おおっ…これですぞ、これ!」
彼は目を輝かせて、ショーケースに張りついた。
そこには、重厚なバトルアックスにミニガンが取り付けられた奇妙な武器が鎮座している。
「ミ、ミニガンって…ダンジョン用って感じじゃないよね?」
僕は思わずその奇妙な形状を見つめながら、正直な疑問を口にした。
洋介は熱を込めて語り始めた。
「いやいや、健太、これがいかにすごい武器か説明しますぞ!このミニガン、実は米軍がベトナム戦争のときに採用したM134ミニガンと似たモデルなんですな。もともとはヘリコプターの支援火器として使われたんですぞ。戦場で絶え間ない弾幕を張ることで、敵の進行を食い止める戦略的な役割を果たしたんですな!」
「おぉ…そんな凄い火力だったんだ…でも、ミニガンがダンジョンで役立つのか?」
僕が少し疑問を抱きながら聞くと、洋介はさらに熱を帯びた声で続けた。
「さらに、このバトルアックスも興味深いですぞ。実は、第二次世界大戦中に、スイスの特殊部隊が『クレードル戦法』って戦略の一環として、類似の武器を使っていたと言われているんです。接近戦での斬撃力と遠距離の銃撃力を兼ね備えたこのアックスとミニガンの組み合わせは、まさにその精神を受け継いでいるに違いありませんなぁ!」
拓也も興味を引かれたようで、ショーケースに近づいてきた。
「確かに、重火器の火力は魅力的だな。しかし、これを使うには膨大な弾薬が必要になる。実用性を考えると、コストが高すぎるかもしれない。」
「うむ、その通りですな。だが、このデザインが示す男のロマンを否定することはできませんぞ!」
洋介は目を輝かせながら、さらに説明を続ける。
「これは、フランスの『第一次インドシナ戦争』でラオス側のゲリラ部隊が使用したと言われる『ショックアックス』の精神を受け継いでいるんですな。ショックアックスは接近戦での恐怖の象徴で、相手の士気を徹底的に削ぐことが目的だったんです。これにM134ミニガンのような弾幕を加えることで、完全無欠の威圧感を放つに違いありません!」
洋介の熱弁は続き、僕と拓也は呆れながらも、そんな洋介の情熱に少し感心してしまった。
正直、ダンジョンでどれだけ役立つかは未知数だけど、これほどまでに武器について語れるってすごいなって思ったんだ。
「まぁ、実際のところ、コストが問題で今は手が出せないけど…でも、いつかこんな装備があれば、僕たちも安心して第二層に挑めるかもしれないよな。」
僕が冗談めかして言うと、洋介もニヤリと笑い
「ふふっ、確かに、これさえあれば敵は震え上がるに違いありませんな!」
と得意げな顔をしていた。
取引所で新しい装備を整え、次の挑戦に向けて気合が入った僕たちは、ようやく取引所を出ようとした。
そのとき、耳をつんざくような怒声が響き、僕たちは驚いて立ち止まった。
声のする方へと顔を向けると、橘さんの姿が見えた。
彼女のパーティーメンバーである山下蓮と佐々木翔太、そして中野優花も一緒だ。
橘さんたちが険しい表情で言い争っている。
「だから、こんな無茶な戦い方はやめろって言ってるんだ!」
山下が冷静に見えるようでいて、怒りに震える声で橘さんに向かって話している。
「だけど、私たちがもっと強くならなきゃ意味がないでしょ!?時間がないって分かってるから、みんなで頑張ろうって言ったのに、どうして止めるの?」
橘さんは強く反論し、真剣な眼差しを向けた。
「いや、橘さんの気持ちは分かるけど…あんまり無理して進んだら、危険が増すだけなんだよ!」
今度は佐々木が、少しおどけたような口調を抑え、真剣な顔で彼女に言い聞かせている。
中野も険しい表情を浮かべていた。
「正直、無謀な挑戦は私たちを滅ぼすだけよ。もっと冷静に計画して、慎重に進むべきだと思うわ。」
橘さんはその言葉に苛立ちを隠せない様子で口を噤んでいる。
しばらくの沈黙の後、彼女はゆっくりと目を伏せ、声を震わせて答えた。
「…私だって分かってる。でも、私は絶対に負けたくないの。強くならなきゃ、誰も守れないじゃない!」
言い終わると、橘さんは耐えきれなくなったかのように、泣き出しながらその場を駆け出していった。
僕たちはその場に立ち尽くしてしまった。
橘さんがこんなに感情をあらわにするのを見たのは初めてだ。
拓也がポツリと漏らす。
「どうやら、彼女たちにも色々と事情があるみたいだな。」
洋介も神妙な顔をして
「ですな…橘さんのような人が、あそこまで追い詰められるなんて、何があったのか気になりますぞ。」
と呟く。
僕もその光景を見て、胸の奥に何かが突き刺さるような感覚を覚えた。
彼女たちも僕たちと同じように、このダンジョンで何かを得ようとしている。
だけど、それが何かしらの苦しみや悩みを抱えながらの挑戦だとしたら…彼女たちが何を求めて、あんなにも無理をしているのかが、急に気になり始めた。
僕たちは目を合わせて無言で頷き、橘さんの後を追おうと足を動かした。
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